北風ピープーの寒い日に、生まれて初めて「さだまさしコンサート」を聴きに行った。といっても、この前の冬のこと。
さださん、もう30年も歌い続けているそうな。♪関白宣言 ♪案山子 ♪北の国から と、曲自体は知ってたけど、生で聴いたことも生で聴こうと思ったことも無かった。
今回の初体験は絵美ちゃんのおかげ。ツアコン絵美ちゃんは角松敏生だけでなく広く音楽に造詣が深い。かなりの頻度で様々なジャンルのコンサートに足を運んでいる。今回はネットの懸賞で、見事、さだまさしコンサートのペア招待券を当てたのだった。
ところが「どうしても外せない用事ができました。どなたか誘って行って下さい」とメールが入った。どうしても外せない用事などまず無い私は、用事があっても片付けてくるだろうだけのパワーの持ち主、ウエダを誘ってみた。まぁまぁ、二つ返事とはこういうことかと言うくらいに、そして打てば響くとはこういうことかいなと思うくらいの素早さで「行きます、行きたい、連れてって」という返信メールが届いた。一人では、いくらご招待でも二の足を踏んでしまう私だが、ウエダが狂喜して一緒に行くというのならと、絵美ちゃんに「チケット送って」のメールを打った。
ところが「チケットは手元にありません」。なぜだ?
ネットの応募で当選した人は、当日受付に行ってチケットをもらうのだそうだ。そういう時代になったのね。なんでもかんでもネットなのね。アナログ世代のこちとらは、何も持たずに会場に行くなんて不安でたまらない、本当に入場できるのだろうかと。ただし、当たったチケットがネットオークションで販売されるのを防ぐ為に、身分を証明する物を一応持参する必要があるという。絶対オークションに出したりしませんよ。とはいえ、いかなるものなのかネットオークションというものを覗いて見た。あらあら、人気者のチケットは10倍もの値段で売りに出されているではないの。そうか、定価6千8百円が6万8千円に化けるなら、しかも元手が0ときたらアナログの私でも、これはそそられるなぁ。
チケットを売り飛ばすなどということはしませんという証拠に、保険証を携帯する。当たったのは絵美ちゃんなので、ここは絵美ちゃんの保険証です。私って、なんて信頼されているのでしょう。この保険証を持ってローン会社に飛び込む事だってできるんだぜ。
絵美ちゃんの住所と生年月日をそらんじて、いざ出陣。受付で「お名前は?」に絵美ちゃんの名前を名乗る。「では、お二人様分のチケットです」。いやに簡単。保険証の提示も無し。やはり、清廉潔白なお人柄がにじみ出ちゃっているのよねぇ。でも昔は当たったチケットを、自分が使えない時は「せっかくだから、もったいないから」って人に譲ったもので、身分証明なんて必要は無かった。歌い手さん(古ッ)だって、空席があったら乗れなくなっちゃうでしょ。それにつけてもいやですねぇ、なんでもお金に換えてしまう世の中なんて。本当のファンが、手に入らないチケットに泣いてるよ。などと、ついつい老婆心を出してしまった。エッ、だれが老婆だって?!
そう言えば、チケットをもらう列に並んでいるのはどうみてもおばさまばかりだ。黒やこげ茶のズボン(パンツに非ず)を穿いて、キルティング地のようにアッタカ印のハーフコートを羽織り、防寒のお帽子を被った人達ばっかりだ。でも、あの方達はハガキとの交換だったな。手ぶらの不安が消えたとたんに、若さ(?)を誇示することができたことに、ほんのちょっぴり優越感。
さて、チケットも無事手にすることが出来ましたので、ここは姿は無くても面倒見の良い絵美ちゃんの遠隔操作に従いましょう。「さださんのコンサートは長いですから、しっかり食べてから入場して下さい」。はいはい。メールで、中華街のお店の紹介だけでなく割引チケットまで転送してくれたのだが寒さに負け、目の前にあった海の見えるレストランで腹ごしらえを済ますことにする。すると、そこにも先ほど県民ホールでチケットを受け取っていたオバサン達と同類の方々が大勢さんで食事をしていた。さださんのコンサートってオバサンだらけなの?
夕方6時、いよいよ開幕。コンサートのタイトルは『恋文』だそうな。私にはピッタリだけど今日の会場には合っているのだろうか。トークで、さださんも言っていた。「僕のファンはヨンさまのファンと年齢が重なるんですよ」って。「みんなぁ、一緒に年を取っていこうなぁ」って。おかげでスタンディングは無し。ゆったりと座ったまま、歌とお喋りを楽しむことができた。数年前、友達に連れられてサザン・オールスターズのコンサートに行った時も、米米クラブのに行った時も、せっかく椅子があるのに最初から最後まで立ったままで飛んだり跳ねたり。その時は楽しかったのだが、おかげで翌日は筋肉痛の憂き目にあった。
静かに音楽を聴いているだけでも、飛んだり跳ねたりしながらでもやはり生というのは心地よい。私の大好きなテレビでも到達できないほどの興奮を味わえる。西村雅彦がジョージアのCMで、懸賞に当たるともらえるCDサラウンドステレオを聞きながら「ものすごい臨場感」と言っているが、やっぱりナマには勝てないやね。けれども、1人ではどこにも行けない悲しい姫体質、誰かぁ「私をコンサートに連れてってぇ」。
たまには高尚な物で目を養いましょう。
弊社労働組合の書記さんから、三井記念美術館開館記念特別展『美の伝統三井家伝世の名宝』なる、能面が恭しく印刷されたチケットをいただいた。何しろ社員食堂にすら一人ではいけない姫体質。一緒に行ってくれる人を探さないことには、三井家のお宝を見ることすらできない。頭に浮かんだ犠牲者はかおりちゃんだ。三井美術館がある日本橋にお住まいのかおりちゃん「お散歩がてら出て来ない?」と聞けば、否とは言えまい。
立冬は過ぎたものの暖かい土曜の午後…と、思ったら甘かった。お江戸に木枯らし1号が吹きました。でも、都営浅草線の日本橋で降り、地下通路をズズッと行けば、風に吹かれず約束のコレドに行ける。高島屋も同じようにして行けるのだが、まだ足を踏み入れたことのないコレド、一度覗いて見たかった。ちょっと前の東急、そしてその前は火事で有名になってしまった白木屋の跡地らしいのだが、方向音痴の私にはドッチを向いて建っているのかすら分からない。道路を挟んでカレー屋があるということだけは発見したのだが。
お互いに、いにしえのテレビ番組『11PM』で浅丘雪路が口癖にしていた“朝まるで弱い”独り暮らしOLゆえ、約束の時間は「午後にしてね」「当たり前よぉ」の会話で、午後の2時半。しかも、そんな時間でも二人ともまっとうに食事をしていない。会うなり「どうする食べる?」「軽く食べたい」。で、地下のスープ・バーへ。パンプキンとトマトのスープ、それとゴマの練りこまれたパンで、遅い朝・昼・ブランチを兼ねて体を温める。近況報告と腹ごしらえが出来た所で地上に出て、目指すは三井記念美術館。
「シャトルバスが15分おきに出ているらしいから、その停留所を探しながら行きましょう」との、かおりちゃんの提案にソロリソロリと歩き出す。ビルにはイルミネーションが取り付けられ、林檎が飾られた大きなツリーも登場し、街はもうすっかりクリスマスモードだ。三越のライオン君は、首から“火の用心”を呼びかける大きなメダルをかけてお馴染みの台座に鎮座している。季節は間違いなく寒い冬へと移っているのねぇ、などと思いながら、ニッポンコクの道路元標を横目に、お江戸は日本橋に居ることを実感しながら歩いていくと、シャトルバスの停留所を見つけるより先に、荘厳な構えの三井記念美術館入り口が現れた。
同じようなことが、ちょっと前にもあったっけ。場所は新橋。リカコと汐留のビルに入っている甘味屋さんへ行こうということになり“ゆりかもめ”に乗ろうと、新橋からテクテクと歩きだしたら、ゆりかもめのホームを見つけるより先に汐留に着いてしまっていたのだ。お目当ての甘味屋さんは長蛇の列で入るのは諦めた。そして、仕方なく店の前で販売している抹茶ソフトを食べてお茶を濁したのだった。ほら抹茶だけに…って、サブ。
今回の三井美術館も、名宝を近くで見るのが難しいくらいの人だかりだった。出品数も130点以上と多く、内容も陶磁器、漆器、書、面、絵画、刀剣等多岐に渡っていた。漆器には印籠や、飾り棚などのミニチュアまであった。書には、中身はさっぱり読めないが行を変えた書き出しには日付らしきものがあるので日記だろうと思われるものも。それらには国宝や重要文化財に指定されている物もゴロゴロある。その上、茶室まで再現されていた。
見学者には、年配の方の占める割合がとても大きかった。それを考慮してか椅子があっちこっちに据えられている。お蔭様で若い二人もあっちを見てはお座り、こっちを覗いてはお座りと優雅な時を送ることができた。
杖をついている方まで、けっこうおられ、その熱心な見学ぶりには驚かされた。それに比べて二人組の会話といったら「皆、自分でチケット買って来てるのかしらねぇ」「私、貰ったチケットでしか見たことない」とか「これさぁ『何でも鑑定団』に出したらいくらくらいになるかしらね」などと、目を皿のようにして有難く展示品を拝見している老老男女の耳に入ったらドヤされそうなことばかりだ。
できたばかりの日本橋三井タワー、まだマンダリン・オリエンタル東京なる世界に冠たるホテルはオープンしていなかったが入場できる範囲の、壁もエレベーターもトイレも木の温もりを感じさせる設えになっていた。泊まることは、まず無いけれどきっとホテルも居心地の良い空間になるのだろうなぁ。
熱心な来場者の皆さんにドヤされないうちに三井記念美術館を後にして、さてこんな二人の目指す場所と言ったらティールーム、今度はお茶とケーキでお喋りだ。先ほどの熱心な方々なら、お茶をしながら、今見て来た名宝の話で盛り上がるのだろうけど、悲しいかな二人の頭の中には美術館を出た時点で、三井家も名宝も綺麗さっぱり消え果てているのだった。だから、話題は専ら仕事の愚痴、上司の不平不満、最近見たテレビの話と、三井家の“み”の字も出やしない。
同じようなことが、ちょっと前にもあったっけ。あれはウエダと試写会を観に行った帰りだった。映画は『バットマン・ビギンズ』。最近、大スクリーンに展開されるアクション映画は、すっかり苦手になってしまい、渋る私に「息子からもらったチケットだからさぁ、無駄にしたらもう二度と声をかけてくれなくなっちゃうわよ。お願いだから一緒に行って」とウエダは食い下がって来た。仕方なく雨の中、新宿は厚生年金ホールに足を運んだのだった。渡辺謙がハリウッド映画に登場という話題の映画だ。バットマンの誕生の秘密が分かるという、バットマンフリークにはたまらない映画だろう。見ている時はそれなりに興奮もしたが、こちらもホールを出たらおしまい。ファースト・フード店に入って、ハンバーガーを齧っている頃には『バットマン』の“バ”の字も渡辺謙の“わ”の字も二人揃って霧の彼方だった。
折にふれ、チケットを下さる皆さん、有効活用できないで御免なさい。でも、どうか諦めないで種をまき続けて下さいませね。いつかは大きな実がなるやも知れませんから。
「今朝は、ほぼ全国的に晴れています。この後も北海道から中国・四国地方にかけて、穏やかな秋晴れ。絶好の行楽日和でしょう」土曜日の朝、にこやかにテレビの中からお天気お姉さんが語りかけてくる。だからなんなのさ。私は今日も出社よぉ。
何が悲しくて、こんな職場に居なきゃならんのだか。土曜日の出社は当たり前、日・祭日だって、年末年始だってゴールデン・ウィークだって、交代で出なくてはならないのだ。マンションの玄関を一歩出れば、いつもの通勤通学風景と違い閑散とした街に、軽装のカップルなんぞがスキップでもしそうな様子で通り過ぎる。電車に乗ればガキが、いえいえ御家族連れがお賑やかに楽しそう。その挙句に改札口でたむろして邪魔だったらありゃしない。なんだって私はこんな日に仕事をせねばならんのか。
ともすれば、他所を向いてしまいそうなアンヨを無理やり会社に向ける。普段の倍くらいの重い足取りで辿りついた会社のMY DESK。PCを開いてガ・ガ・ガ〜ン。なんと「本日はインターネットとの接続ができません」だって。な、な、なんですとぉ?! てぇことは、今日は1日、仕事だけしてろってことぉ。そんな殺生なぁ。ネットができてこそのPCです。土曜や祭日に出社しては、友達に「土曜なのに出社してまぁす。慰めのメールを下さい」なんて打って、返事が来た時の嬉しさよ。土、日、祝祭日に出社した時の安らぎは、そんなトコにしかないじゃないの。バージョンアップだ、ウィルスバスターだ、メンテナンスだと言っては、システムの部署がインターネットを止める。一体私の心のメンテナンスはドコの部署がしてくれるのでしょう。
おまけに、土曜だから日曜だからと社内のアチコチに工事が入る。この度はなんとトイレの配水管工事。「工事のため使用禁止!!」デカデカと書かれた紙が貼られた大きなゴミ箱が、トイレの入り口で通せんぼをしている。「申し訳ありませんが他階のトイレをお使い下さい」と添え書きはあるものの、不便よねぇ。そして、席まで漏れてくるガリガリ・バリバリという工事の轟音。ああ、この精神状態、どこへ持っていったらいいのやら。こういう時こそ「ねぇねぇ、聞いてよ」とメールで、北は北海道のいづみちゃんから南は福岡のヨコちゃんにまで訴えたいのにぃ。
しかし “人間万事塞翁が馬” 嘆きの天使にも、長い年月には思いもよらぬお駄賃が、ごくたまぁにはあるものです。思い起こせば…何年前だか忘れたが、忘れはしない11月3日は文化の日。やはり出社の憂き目にあった私は、弊社のご近所の読売新聞社本社前から繰り出した、読売巨人軍の日本シリーズ優勝パレードを見ることが出来たのだ。ああ、強かった巨人軍。その元気いっぱいの選手達がギンギラにデコレーションされた3台の、バスをくり抜いたような形のオープン・カーに分乗して大手町の読売新聞本社前から銀座までパレードする。私は大手町の逓信博物館前で、陣取った人たちの間から首を出し、そのパレードを目の当たりにすることが出来た。元木がいる、高橋由伸がいる、金髪の清原がいる。そして、もちろん長嶋監督も。上気した顔が、よく見かける日の丸のように紅いホホの、長嶋さんの似顔絵にとてもよく似ていた。絵そのまんまに紅顔の元気ハツラツな長嶋さん、大きく手を振り、ファンの声援に笑顔で応えていた。また、あんなお姿を是非とも拝見したいものだ。
大手町でお見送りした後は、日本テレビのライブを見る。銀座には人が溢れかえっていた。休日は閑散とした大手町でさえ、人垣が出来ていたのだから休日の銀座ではごった返してあたりまえ。こんな時は休日出勤して良かったと思う。ちゃんと肉眼で、しっかりじっくりジャイアンツのお歴々のご尊顔を見ることができたもの。
そして今年の正月3日は、箱根駅伝の復路。やはりご近所の読売新聞本社に帰ってくる韋駄天達の走りを見ることができた。こちらは、選手だけでなくそれぞれに陣取った大学の応援合戦も賑やかで楽しい。『水10!ワンナイR&R』のゴリエのような超ミニ・スカートで、各大学のチアガール達が飛んだり跳ねたり回ったりしている。こういう場合のミニ・スカートは、階段でお尻にバッグを廻して他人の目を気にしながら「なら、履くな!」というのとは違って、健康ではちきれんばかりの若さが溢れ、見ていて気持ちがいい。
各大学の、6畳分はあろうかと思えるほど大きな応援団旗。羽織袴の団長は高下駄を履いて扇子を振る。和太鼓が、お腹に響くような大音声で打ち出される。肝心の駅伝選手の姿が見える前から大変な盛り上がりだ。土日・祝祭日は休みのはずの海鮮居酒屋も、今日は炊き出しのような大きな寸胴鍋で、海鮮味噌汁を大安売りだ。発泡スチロールの丼にたっぷり入って200円也。う〜ん、晴天とは言え真冬の空の下。海の香りもろとも胃の腑に沁みまする。
ハツラツチアリーダーのダンスも見たし、荘厳な和太鼓の音色も聞いた。寒さの中で、お腹も満たされたし、そろそろ社に戻ろうか。
ン、何か忘れちゃいませんか…という頃になって沿道が賑やかになってきた。そうそう、私は箱根駅伝復路のアンカーが到着するのを待っていたのだった。スタッフから渡された読売新聞社の小旗がワサワサと振られている。その彼方に、見えた。紫色のタスキだ。駒大だ。一昔前のいかつい運動選手のイメージが払拭される。(一昔前の方々御免なさい)小顔に、短く刈ってはいるものの坊主頭とは違う天辺がちょっと尖がったお洒落な髪型、スマートで洗練されたお姿の青年が、紫のたすきをかけ、歯を食いしばって目の前を疾走して行く。ほんの一瞬ではあったけど、その爽やかさに素晴らしいドラマを見たような満足感が残った。
その夜、スポーツニュースにチャンネルを合わせると、紫のたすき・駒沢大学のアンカー柴田尚輝君のゴール直前、人差し指を高く突き上げNo.1を表現する姿が映し出された。ナレーションで4年生ながら、今まで一度も『箱根駅伝』には選ばれず、今年が最初で最後の『箱根駅伝』だったということを知った。ゴール直後に柴田君は顔を覆って男泣きしたそうだ。やはりドラマがあったんだぁ。
今年も既に年賀状が売り出された。そして年末年始の勤務表も渡された。ゲゲ、又新年3日に出社ですかぁ。せいぜい、忘れられないドラマを目の当たりにできることを祈るといたしましょう。そして重ねて祈りましょう、再来年こそはこんな職場にオサラバしていることを。
南アメリカの熱帯林に生息する哺乳類、アリクイ目のナマケモノよりも、もっと怠惰な生活を送る私ではあるが、ある日突然憑き物でもついたかのように、遮二無二頑張り「自分で自分を褒めたい」なんていう気持ちになる時がある。それが、1〜2ヶ月前の月曜日、時刻は午後の10時を回った頃だった。
いつものように午後9時からの2時間サスペンスドラマ『月曜ミステリー劇場』を見ていたのだが、これが最近に無い愚作。つっまんないのよねぇ。主演の長嶋一茂のダイコン芝居にも唖然。この人、こんなに下手だったかなぁ、なんて呆れ果てた途端に、俄然放っておいた懸案事項を片付けようという思いが湧き上がって来た。
これが、壊れたワード・プロセッサーの解体。15年以上も前に買った富士通オアシス30AX をバラすことだった。大きさは縦29センチ×横37センチ、そして奥行き14センチ。持ち歩くこともできるデスク・トップといった所だろうか。このワープロには思い入れもある。浜松町の貿易センタービル内でワープロ検定を受けた時も、この my word processor を持参した。と言っても運んでくれたのは、私に「受けてみなよ」と薦めた、職場の同僚だったけど。因みにこの人はワープロの運搬だけでなく「落ちたら恥ずかしくて会社に行けない」と泣く私に代わって、一週間後の結果発表も見に行ってくれた。結果? 受かったに決まってるじゃない。しかもほぼ満点に近いという快挙よ。マ、このワタクシが落ちるなんて考えてもみなかったことですけどね。ホホホ。
拙著『みんなテレビのおかげです』を書いたのも、最初のうちはこのワープロだった。書きあがる度にプリントアウトしては編集長に手渡したものだ。それがいつしかパソコンなる物が普及し、いちいちプリントアウトしなくても原稿をそのまま添付できる、メールなんていう便利なものまで出来た。それからはパソコンオンリー。いつだったろう、悪筆の私は手紙をワープロで書いてプリントアウトして出そうと、部屋の片隅に追いやっていたワープロのスイッチを入れた。入らない。押しても引いても宥めてもすかしても、ガンとしてスイッチが入らない。「あなた、若い子を見つけたら冷たく私を捨てたわね」とでも言うように、あの働き者だったワープロちゃんは、すねたままどうやっても言うことを聞いてはくれなくなってしまった。あのまま使い続けていれば、今でも素直に文字を刻んでくれていたのだろうか。ただただ反省。
でも使えない物は仕様が無い、泣く泣く処分です。ただ、ここで問題です。小なりとは言えワープロとなりゃぁ立派な粗大ゴミ、むやみに捨ててはなりませぬ。業者に頼めば良いのだろうけど、頼み方も知らないし日時を決めて来てもらうのもメンドクサイ。この際、解体し、小分けにしてゴミに出そうと決心した。決心はしたが、非力なこの私、なかなか実行には移せないでいたのだ。それが、この日突然憑き物が取り付いたのだ。それからの私、どこにあんな力が眠っていたのでしょう。「この封筒をご持参の方にはもれなくプレゼント」の封筒を持参して、東京駅大丸でもらったミニドライバーセット。もらってから手にする機会が無かったが、今晩は思う存分働かせてあげる。片っ端からネジをひねって外せる物は全て外す。最初に、直径2cmほどの取っ手の横棒が外れた。背中の被いが剥がれて迷路のように組み立てられた配電盤(?)が出てきた。ヒューズだかコイルだかチップだか、私には名称の分からない物が緑色の薄い板の上に密集している。バッテリーのような重たい部品もある。これも外れるので頑張って外す。赤、青、黄色、緑に白、黒の配線も可能な限りハサミでちょん切る。感電しないよねぇなんて、電源が入らなくなってしまった機械なのに杞憂、杞憂。
薄っぺらな鋼板が2枚、配電盤のような重い塊の緑の板が2枚、プラスチックの箱が分かれた3つの部位、そしてキーボードとパネル部分、プリンター部分に使われた2本の金属棒、それと最初に外れた取っ手の筒。見事にここまで分解したぞぉ。
肩も懲り、指も真っ黒になり、目もしょぼつきだした頃、気分がナチュラル・ハイになって来た。♪ケコちゃんは偉い〜頑張れケコちゃん ルンルンルン なんて即興の鼻歌を歌いながら始めた作業は、脇にあったビスを外し、キーボードを見事3枚におろした後に、キーをボードから1個1個外すこと。これは、キーの下に大きめなハサミを差し込み、梃子の原理で跳ね上げる。すると板から外れた、字が印字されたキーの部分と補助のように細い軸についた枕のような部分が、天井まで届く勢いで飛んで行く。子供が新しい遊びを発見した時のように目を輝かせキャッキャッとはしゃぐ、けっこう年齢の行ったお姉さんがそこに居た。それにしても、よぉく飛ぶのよねぇ。山形で行われるさくらんぼの種飛ばし大会の向こうは十分に張れるはず。ところで時刻はと見ると、既に26時。今日は月曜日。ヤバッと気づき、それから部屋中に飛散した1センチ四方のキーと、キーの枕(?)を拾い集める地味な作業。一体夜中に私は何をやっているのでしょう。
さて、一応できる限りの解体は済んだものの、これを上手にゴミとして出さなければなりませぬ。へんな出し方をすると管理人さんに叱られます。なにしろ平生から「きちんと分別して出しましょう。管理人さんは大変です」と、張り紙をしているような人ですから。この一大イベントを始める前に見ていたのは『月曜ミステリー劇場』。やはりここはサスペンス・ドラマのように小分けにした袋を夜中にそっとゴミ収集所に出すのが一番刺激的。山に埋めに行くには車も無いし、ゴールドのペーパードライバー。秋の気配の中で、ちょっと猟奇犯の気分でも味わってみるとしますか。ゾゾゾッ。