ウエダに言わせると私が独身なのは「惚れっぽくないのが敗因よ」となるらしい。

「独りはツマンナイ」と言いつつも、自分から惚れたはれたは無いし、近づいて来た相手と(マ、いっか)とお付き合いが始まっても(やっぱ、チャウ)となり、結果…今に至る。そんなことの繰り返しで私は悟った。“ワタクシは神様の秘蔵っ子”ゆえ ♪誰も彼も花を抱えて戸を叩くぅ〜 と、山本リンダが歌うように、殿方がマンションの前で列をなしたとしても、一人の男性のものにはなれないのだと。 なので、これからも孤高の人を貫かねばならないのだと。

しかし、お彼岸も過ぎ、秋の気配が押し寄せてくるこんな日、独りポッチは寂しいぞぉ。小春日和の日差しがもの哀しいぞぉ。ああそれなのに、それなのに、私の周りのミセス共ときたら、なんとパートナーを粗末にしていることよ。

数年前ウエダから珍しく、就業時間のデスクに電話が入った。開口一番「ねぇ、ウチのの支社転勤辞令出てる?」ときた。ウエダは社内結婚だ。そして、夫のウエダ協平くんが次回の人事異動で大阪支社に転勤になるはずだと言うのだ。「10日ほど前に、転勤になるらしいと言ってたのに、なかなか決まったって言わないのよ。発表は昨日よね?!」。一応4000人からなる弊社でして、辞令に細かく目を通しておりませんでしたので気付きませんでした。それから身を入れて束になった辞令を見直し、協平くんの異動を確認。折り返し電話を入れるとウエダの声の弾むこと「良かったぁ。スッカリその気になってたから動かなかったらどうしようと心配したワ」。食いしん坊のウエダのこと、やはり“食い倒れ”の街に行けるのが嬉しくて仕方がないのだろうと思った。しかし「家族は行かないワヨ。単身赴任に決まってるじゃない、やっとホッとできるのに」と、冷たいお言葉。「なんなら、一人でずっと大阪に居てくれてもいいワヨ」。おいおい、それはあんまりのお言葉ではないですか。

思い起こせば、遥か遠い日。ウエダの新婚家庭にお邪魔した時は、お酒の呑めない協平くんが、毎晩のようにケーキの箱を片手にご帰還し「嬉しいんだけど太っちゃうワ」なんて、大いにノロケておりましたっけ。「風邪ひいたみたぁい」なんて言って、協平くんとオデコとオデコをくっつけて「大丈夫、熱は無いよ」って、こっちの方が熱が出そうになるくらい、アツアツなところを見せ付けられましたっけ。

ああそれなのに、それなのに年月の経過のなんと怖いこと。大阪赴任から3年後、協平くんが東京本社に戻ると決まった日「大阪から東京じゃなく、そのまま神戸へでも行ってくれたらいいんだけど」と、不平の電話が掛かって来た。そして、元の暮らしが始まってからも「独りはいいわねぇ」と、孤独の寂しさなどオモンパカル気はさらさら無く「一人でイイから相手が欲しい」という私に「お互い無いものネダリよね」だって。ウエダはあるモノを邪魔にしてるのじゃないか。それは無いものねだりではないぞ。

美里さんのご主人も茨城へ単身赴任中だ。「可愛いジーク君と二人でホッとしてるわ」と、国勢調査にまで「男・就学前」で提出する愛猫を抱いて、ご満悦だった。皆さん、日本の人口には雄猫が混じってますよ。「猫を申告しちゃまずいんじゃないの?」という私に、美里さんはおっしゃった「どこにも、人間とは記されておらん」。そんなの確認したことも無かったよ。

ところが、大切な大切なジーク君がガンで、あっけなくこの世を去ってしまった。それもこれも“おっさん”と呼ぶご主人のせいだと美里さんはおっしゃる。「あの男、ジーク君が大手術を受ける日に帰って来んかったんやでぇ」と。それは心細さ、頼りたい気持ちの現れだと思ったのだが「病気平癒のお守りを持ってくると約束してながら、仕事が休めんようになったと言って帰って来んかった。お守りが届かんかったからジーク君は逝ってしもたんや」と、烈火のごとくお怒りだ。どうやらご主人ではなく、ご主人が持ってくるはずだった“お守り”を待っていたらしい。ペット・ロスは周りには計りしれないくらいのショックがあるらしいが、まだだんなさんというペットが残っているではないか(?)

そんなこんなのウエダも美里さんも、夏休みだ正月休みだと言っては、ご夫妻揃って海外にお出かけになる。それでいて帰ってくると決まって私に、お土産話ならぬ亭主の駄目話を聞かせてくれる。「もう2度と一緒に旅行はしない!!」これが毎度の決まり文句なのだが、それでいて翌年は又、一緒に出かけて行くのだ。「どうせ来年も一緒に行くんでしょ?!」とちゃかすと「だって、夫婦で行くのが1番安上がりなんだもの」。なら毎回毎回、独り者の私に愚痴を言いなさんな。

そこに行くと、豚弟夫婦は何処に行くのも一緒だ。既に、とっくに新婚さんでも無いのだけれど、犬の散歩と称して義妹は豚弟を駅まで迎えに行く。帰って来ると、遅い夕飯。老親と子供達と先に食べてしまっている義妹は、弟の横で甲斐甲斐しくおさんどんだ。たまに私も実家に帰り、豚弟と一緒に食卓に座ることがある。そんな時、義妹が豚弟に「美味しい?」なんて聞いているのを見ていると、微笑ましいとは思うものの、そのうち、今、夕飯を食べてる傍で「明日、何食べたい?」なんて質問が真顔で始まると、こちらが「今、夕飯食べてるのに考えられるか」と言いたくなってしまう。「帰りは今日と同じくらい?」「男は外に出たら7人の敵が居るんだ、時間なんて分かるかい」。もちろん返事したのは私の心の声で、豚弟は「明日、何食べたい?」「そうだなぁ…」。「帰りは今日と同じくらい?」「そうだなぁ…」と、のらりくらりとかわしている。

それにつけても、ウッセー、ウッセー!! 家に帰り着いての食事くらい静かに食べさせてもらいたいだろうに。こんな、豚弟の妻の様子を見ていると、まだ放って置かれるウエダや美里さんのご主人方の方が幸せかも、と思ってしまうのは、独りぽっちが長い私の僻目だろうか。