“爆弾低気圧”なんて言葉を聞くと、ズラッと並んだ大砲から雪の玉がガンガン打ち込まれてくるような場面を想像して、寒さにゾクゾクしてくる。

埼玉にある実家は日本家屋の一戸建てで、半端じゃなく寒い。そのせいで寒がりの私は冬場はめったに帰らないが、帰ると必ず一晩に三度は入浴する。一度目、髪を洗って乾かし終わるまでに体が冷えてしまい、温まり直しにもう一度。やっと温まって寝ようとするものの、可愛い娘の帰ってくるのを待っていた母に捕まり、豚弟の愚痴などを聞かされているとアッという間に又冷えるので三度目。ここで、誰に何を言われようと体が冷えないうちに布団にもぐりこまないと四度、五度と、温泉でもない家庭のお風呂に入らなければならない羽目になる。

布団の中は、たまに帰る娘のためにと、母が干したり電気毛布を入れてくれたりで、ヌックヌクに暖まっている。毛布や、掛け布団もありったけの枚数がかけられ、隙間風で肩が冷えるといけないからと、首をくりぬいたような形のムートンの肩掛けまで用意されている。気持ちはありがたいが、母の愛情の重さに圧死しそうだ。

そんな実家とは違って、都内の超高級マンションは朝目が覚めると、結露が滝のように流れるくらいの密閉率。特に南に面したリビングは、まるでサン・ルームだ。朝日で、テーブルに置いた手が焦げそうなくらいに熱くなる(オホホ)。西向きではあるが寝室も、実家のそれとは大違い。今まで電気毛布も使ったことは無い。

しかし、今年の冬はちょっと手ごわそうだ。大阪在住の薫から「湯たんぽを入れてみたら、とっても具合が良くて手放せなくなりました」のメールが届いた。それからというもの気になっていたせいで、帰り道にドラッグ・ストアで電子レンジで暖めて使う“ゆたぽん”なるものを見つけた時には、ついつい手が伸びていた。レンジで3分チン(W数によって変わる)すると、暖かさが7時間持続すると箱に書いてある。これはお手軽。寝る前に早速チン。なのに、実際に使ってみると“ゆたぽん”は6時間で冷たくなり、その途端に私は目が覚めてしまった。時間は6時。まだ私の起床時間には1時間以上もある。

お湯を入れるタイプのは、どの程度暖かさが持続するものか薫にメールで問い合わせると「私の湯たんぽはちょっとセレブで、ドイツ製の銅の湯たんぽです。日本の物に比べて、かなりコンパクト、弁当箱ぐらいです。これは結構使い勝手がよく、小さくても朝までもちます。たしか8千円ぐらいしたかな、私は予約していたので この価格で売ってもらえたけど、今はユーロ高で1万円 以上すると思うよ。でもいいものってやはりいいですよ」と、鼻高々の返事が返って来た。湯たんぽで1万円? そんな値段の湯たんぽに“超高級貧乏性”の私はおいそれと足を乗せることなどできゃしないなぁ。

私が子供の頃はブリキ製で表面が波々になっている湯たんぽだった。蓋はねじ式で、お湯がこぼれては大変と、ねじの頭に渡してある太い針金に菜箸を通し、ギュッギュッと硬く閉めたものだ。でも、そうすると翌朝は開けるのが大変。またもや菜箸を入れて思い切り、こじあけていた。何本菜箸を折って母に怒られたことか。こげ茶色の陶器製の湯たんぽもあった。蓋は木だかコルクだったような気がする。

湯たんぽの次には豆炭アンカだ。厚みのあるお弁当箱を2ツ合わせたような大きさで、オレンジ色だったのを思い出す。まずは、七輪で練炭に火をおこす。その上に豆炭を乗せて火がつくのを待つ。その豆炭を、痩せた鋏の親分みたいな火ばさみで、2つ合わさったお弁当箱のようなアンカの真ん中に置き、口金で留める。これで一晩どころか、ほぼ1日ぬくぬくなのだ。確か品川アンカと言ったと思う。品川が地名から来てるのか、社名かは知らない。その後は電気のアンカだった。10cmも高さのあった豆炭アンカからしたら、大分薄くなって楽に足が乗せられるようになった。

薫に聞いたドイツ製の湯たんぽ、その銅製の1万もするという湯たんぽをインターネットで探してみたら凄い、すごい。湯たんぽは今、静かなブームになっているらしく、応援(?)メッセージがいっぱいだ。曰く、ヒーターの類と異なり皮膚が乾燥しない。乾燥しないので喉が渇かない。ほかほかと自然な暖かさでいて、だんだんに温度が下がるから体に優しい。電気の消し忘れが無いから「消したかな?」と、通勤途中に青くなることはない。電気代もかからずエコロジーetc。紹介されている湯たんぽも、昔ながらのブリキのものから、陶器、水枕風のゴムの物、薫が言っていた銅製の舶来品や話題のラドン岩盤浴湯たんぽなんてのも登場している。そして、そのカバーたるや、ツチノコ型や北欧デザイン風、パッチワーク、そして当然のようにキティちゃんからミッキー、プーさん、トゥイティーと、キャラクター商品も例を挙げたらキリが無いほど掲載されている。足の下に置くだけでなく、これらのカバーに包まれたものは抱いて寝る人もけっこういるらしい。

湯たんぽという言葉自体が、文字も響きもほんわかと暖かそうだ。インターネットで見ているだけで、足の下に置くもの、腰の辺りに充てるもの、抱いて寝たいキャラクターと、幾つも欲しくなってきた。

いやいや、既に私は“ゆたぽん”なる湯たんぽ仕様の物を持っているのだった。これはこれで、持続時間にチト難点はあるものの、中身がジェル状だもので足を乗せても、足に乗せてもいかようにでも形を変えて対応してくれる。カバーは味も素っ気もない長方形のオレンジ色の袋だが、毎晩チンして抱えるとこれはこれで愛着が涌いてくる。やはり“暖”は心も暖かくしてくれるようだ。

そう言えば、何で読んだか忘れたけれど「何で結婚したの?」「だって寒かったんだもん」っていう会話に感激したことがあったっけ。あのぉ、私も寒いんですけど“ゆたぽん”に代わってくれる人、居ませんか?