弊社では毎年3月1日付けで、大きな人事異動がある。年も明けると早々から、ああでもないこうでもないと憶測が乱れ飛ぶ。鍋奉行ならぬ人事奉行がアチコチに登場し、さもありなんという構想を練り上げる。発令は3月1日付けだが内示は2月の中ごろである。今年は2月の16日だった。それより10日ほど前に、トイメンのP氏が部長から耳打ちされたという話を「他言無用」で教えてくれた。

やれ嬉し。この欄にも“ご登場いただいた”遅刻常習犯の上、ドタバタとはた迷惑な隣人の女性と、ク○(私の口からは言えません)生意気な若造が、どうやらここから出されるらしい。しかも後釜にはP氏が兄弟の契りの杯を交わした可愛い舎弟分、パシリのケンと、癒し系天然キャラの蒲田さんが来てくれるというのだ。こんな願ってもない人事はない。ガマンにガマンを重ねた甲斐があったと、苦労を共にしたP氏とビールで祝杯。ただし、まだまだこのことは当人達にもヒ・ミ・ツ。

乾杯から3日ほど後に、ケンちゃんからP氏に内線電話が入った。彼も異動の件を上司から耳打ちされたらしい。喜び勇んで、P氏への報告と相成ったわけだ。その晩のうちにP氏、ケンちゃんと私の3人で、目の前にやって来た明るい春を祝い、居酒屋・さくら水産にて大ジョッキで乾杯。三人三様に喜びが溢れ、その晩のお酒の美味しかったこと、ウニが、アンキモが、ピリ辛コンニャクが、鯖の味噌煮が、ジャコと水菜のしゃきしゃきサラダが、ほっけの塩焼きが、焼き鳥が、もずく酢が、握り寿司が、カマンベールチーズの揚げ物が、おしんこうの盛り合わせが、もずく酢が、美味しかったこと。(こりゃ食べ過ぎでしょ)

翌日、洗面所で蒲田さんと遭遇。見つめられても、口がむずむずしても言えない言えない人事の件は。彼女はどうやら希望している職場があるらしく自分の胸の内を、何も知らずに吐露してくれた。「私、○○部に行きたいんです」。「そうなんだぁ、希望がかなうといいね」って、(貴女の行き先は決まっているのよ)と思いながら答えている私はやっぱり美人女優?!

「○○部には行きたいんですけど、▲●という、感じの悪い人が居るんですよねぇ」って、ちょっとだけ不安げな蒲田さんに「あら、あそこの部長はウエダのご主人よ」と女優は演じ続ける。「そうなんですかぁ。なら安心。絶対に行きたいですぅ」って、すっかり、顔見知りのウエダのご主人の部下になり、楽しく働いている場面を想像しているようだ。ゴメンネ、貴女のごくごく近い将来は私の隣の席と既に決まっているのよ。

という訳で、3月1日から蒲田さんが私の隣に座っている。社で席を並べるのはこれで2度目だ。前回は蒲田さんが既に在籍していた部署に私が“新参者”として入った。お笑いの吉本興業の例を真似て、年下でも在籍が先輩の蒲田さんを私は“姐さん”と呼んで今に至る。

しかし、この職場は私の方が先輩になる。今更、呼び名を変えるのも不自然だし困ったと思っていたが、なんと蒲田さんはこの部署に入社早々配属されて2年間過ごしたことがあったのだそうな。なぁんだ、ここでもやっぱり大先輩だったのね。それを知ってからは「出戻りの新人さん」と呼んであげて、蒲田さんの口癖「ひどいわ、ひどいわ」を言わせてあげている。

“出戻りの新人さん”は、なにかあるごとに、気心の知れた姫宮にSOSを送ってくる。そして、その時々で「ひめみや先生〜」だったり「ひめみや様〜」だったり「ひっめみっやサァ〜ん」だったり「けいこさまぁ」だったりする。この区別はどこから来てるのか、蒲田さんご自身も多分、分かっていないものと思われる。

「はい、はい」と返事をしながらふと思う。私と蒲田さんは余程相性がイイのではなかろうかと。江原ナニガシ氏にみてもらったら前世での因縁を語られるのではないだろうかと。なぜって蒲田さん以外の人に、これだけまとわりつかれたら、私は「煩い散れ!!」と、絶対に言っていると思う。昨年の、文字通りの新人さんであるところのヨウコちゃんにはトイレまでまとわりつかれ、さんざん「散れ!!」の言葉を浴びせかけてしまった。今度の人事で彼女は部署が変わり、フロアが変わったので、もうまとわりつかれることもないだろう。今回の人事は、けっこう私に味方してくれているような気がする。

蒲田さんの人となりと、2月までの矢田さんと私の確執を知っているリカコや絵美ちゃんやウエダは「良かったねぇ、これからは癒されるねぇ」と言っている。リカコからは「蒲田さんと一緒にマッタリしていて、仕事を忘れないようにして下さいね」なんて、的を射たメールも入った。う〜ん、教えながら2倍働いて忙しいはずなのに“マッタリの気”の力が相当強いのか3月になってからは、ずっと悩まされていたストレス性の「声が出ない」「蕁麻疹が出る」という症状が綺麗に消えている。たとえ仕事量が2倍になっても、佃煮にするくらい私の名前を連呼されても、ここはマッタリゆるキャラの“出戻りの新人さん”に感謝しなくてはいけないだろう。

ところで、パシリのケンはどうしたかというと、やはり、願っても無いことは願ってもないのだった。2月16日に蓋を開けると、ケンはなんとお隣の部署に異動と決定。あの3人で挙げてしまった祝杯をどうしてくれるのだ。そしてク○生意気な若造は相変わらず、同じ部署で斜め向かいの、私からしっかり見える席に座っている。

「クッソー!!」オッと、思わず口にできない言葉をこのワタクシが口にしてしまった。