2006-06-11 日
出まかせ女
“人事考課”なるナンダカナァというシステムが、わが社でも7年ほど前から導入されている。半年毎に部署の長が、部員に「どんな仕事をしたか」「どんだけの成果を出せたか」「反省点は何か」「将来の展望」などを記入した用紙を提出させた上で面談をする。社員約4000人の弊社で、このシステムを確立するために専門会社に支払った費用が1億円と聞いて驚いた。こんな、しゃっちょこばったシステムが導入されるより前の方が、上司への要望も相談事もフランクに言えたし、上司も部下の仕事ぶりに日ごろより目を向けてくれていた気がする。ああ1億もの大金を払ってギスギスとした面談のシステムを導入するなら、みんなでマッタリしようよと思うのは私だけだろうか?
この春の面談でも部長から聞かれたが「仕事内容?」創造的な職場ではないのだから、半年やそこらで変わろうはずがない。「成果?」毎日業務を滞りなくこなしてますよ。「反省点?」この完璧なワタクシに反省する点などあろうはずがないではないの。「将来の展望?」可愛いお嫁さんになること…って、これを子供の頃に思わなかったのが敗因か。エッ、仕事の上でですか? 人事権のある輩の“鶴の一声”で、将棋の駒のように動かされる身としては何を言ったところでせんないことでねぇ。
でも、こんなことを言ってたら人事考課の結果が危ぶまれます。甲種合格ならずとも丙種不合格の烙印は押されたくない。一応は、お・と・なですから政治的配慮、「苦手なエクセルを勉強して、仕事に役立てたいでぇす」などと言って、お茶をにごす。これで解放されると思ったのだが、私の「口から出まかせ」に部長が過剰反応。「社でエクセルの講習会があったら、参加して勉強しますか? これから総務に聞いてみましょう」だって。いえいえ、そこまでご配慮いただかなくても…。
その時の、部長のフット・ワークの良さには驚いた。いつもは部の1番奥の席で、苦虫を100匹くらい噛み潰したような顔をして、筑波のガマよろしくジーっと座っている人なのだ。なのに、アッという間に総務へ向かい、アッという間に関連会社の主催している『これならわかるExcel』のInternet Campusという講習会を探し当て、アッという間に戻って来て「登録して来たから頑張ってね」と、私の肩を叩いた。
この講習会、どこかの教室に通うのではなくInternet Campusと言う通り、自分の席のパソコンに向かい画面の指示に従って一人で学ぶというものだ。
教えられた通りのユーザーIDとパスワードを入力すると『これならわかるExcel』のタイトルと共に、「この講座の学習目標」という文字が浮き出て来た。「この講座は,Microsoft Excelを仕事などで使うときに必要な操作を,短時間で学べるように開発されています。データ入力から表作成,グラフ作成,データベース機能まで,ひと通りの操作を段階を追って学べるようになっていますので,初心者でも安心して受講して頂けます」だって。「具体的にはセルへのデータ入力と編集方法・数式と関数の使い方・表の作成と編集の仕方・印刷の仕方・保存の仕方・グラフの作成と編集の仕方・データベース機能の利用方法が身につきます」って、本当かなぁ。
会社の帰りに教室に通うのは大変だが“乳母日傘”で育った私としては、なにごとも“手取り足取り”教えてもらわないことには、習った気がしない。四角い画面だけ見ていて、そんなに沢山のことが身につくのかと不安というか不満だった。自分の席で学ぶならイケメンのインストラクターが出張してくれるというシステムはないものだろうかってね。
しかし、登録されちゃった以上は始めなくてはならない。目安として、8月18日までに7章からなる学習を修了し、21日には修了試験を受けなくてはならない。各章毎に「この章で学ぶこと」というガイダンスと、終了時に練習問題がある。気の短い私は、トットコトットコ章を読み進み、練習問題にチャレンジし、3ヶ月で終わらせる学習を1週間でやってしまった。やっぱり私は偉い。才色兼備だ天才だ。
問題は最後に待ち構えている修了テストだ。これをチラと覗いてビックリ。この修了試験、各章でチャレンジして来た練習問題と傾向が全然違う。そんな馬鹿なって本気で思ってしまった。端的な例が練習問題の時、わざわざ「この練習問題では右クリックは使いません」と断っておきながら「右クリックを使うと…」なんて出題されているのだ。それでいて「10問中9問以上の正解で合格。合格するまで何度でもチャレンジできます」。要するに10問中9問以上正解するまで許さないよ、ということだ。この割合は高すぎる。
ここにきて、人事考課の時の「口から出まかせ」が悔やまれる。そうそう、前に居た部署でも人事考課の面談で同じようなことがあったっけ。「何かやりたいことはありませんか?」と、執拗に上司に迫られ、ランチの時に仲間と交わした「セクハラ」の話を思い出し、つい口にしてしまった。「社内のセクハラ事情に取り組んでみたらどうでしょうか」。上司は大きく身を乗り出して言った。「素晴らしい問題意識ですね。是非やりましょう。貴女は女性の立場で、先頭に立って取り組んで下さい」。う・うそぉ〜。
それから部署が異動になるまでの4年間、月に1度私は飛行機のファーストクラスの座席のような椅子の並ぶ役員会議室で、各局の局長を前に「セクハラ」に関する講義をするという、とんでもない役をやる羽目になってしまった。あの頭を痛め、胃を痛め続けた4年間。「女性だからセクハラの講師」とは、これこそ“セクハラ”ではないかと何度思ったことか。しかし、元を正せば呪うべきは私の「口から出まかせ」であるからして…。ああ、あの時に、散々懲りたはずなのに。
それにつけても修了試験。顔が見えないのがPCのイイトコ(?)なんだから、Excel得意のリカコか絵美ちゃんに替え玉受験をしてもらおうか。それとも“嵐を呼ぶP氏”にPCを壊してもらい受験不能にしてもらおうか。あるいは8月21日に急病になろうか…いずれにしても、自力で頑張って合格しようとは露ほども考えない「口から出まかせおんな」なのであった。