2006-12-03 日
年賀状
大変だ、大変だ、今年は年賀状を自分で作らなきゃならなくなってしまった。
何を隠そうこの私、芋ばんや蜜柑のあぶり出しで「食べ物を無駄にするんじゃないの!!」と母に怒られながら年賀状を作っていた子供の頃をのぞくと、ずっと“下請け”に出して、毎年ノンビリと宛名だけを書けば事足りる年賀状人生を送っていたのだった。
“プリントゴッコ”という有り難い器具が世に出てからは、機械好きの豚弟に「この図柄で、この文章」と指示を出しさえすれば、アッという間に年賀状の裏面がプリントアウトされる。自分の悪筆や、センスのカケラも無い干支の絵に悩まされることもなくなった。もちろん、自分の住所も片隅に入れてもらう。これだって「字を書くくらいなら、恥をかいた方がマシ」と嘯く母の娘だもので、字を書かずに済むならどんだけ助かるか。お陰で、表の宛名だけを炬燵で蜜柑でも食べながらのたり、のたりと書けばいい。
数年前からは、私の数多いファンのうちの一人がPCで作ってくれるようになっていた。年末が近づくと、年賀状用のイラストや写真、文章までがワンサカ載った本を差し出し「どういうのが良いか、選んでおいて下さい」と恭しく言われる。「うむ分かった。選んでやろうぞ」。最初の頃は、はがきまで「普通のでは駄目なんです」と言われ、それは私には購入できない特別なはがきなのかと、全てをお任せしていた。さすがに、ここ数年は「PC用をお願いします」と言えば郵便局はもちろん、お祭りの屋台のように、局員が「年賀状いかがですか」と、道行く人を呼びこんでいる出店でも、ちゃんと用意して売っているということを知り、年賀はがきの用意だけはするようになった。なので、そこで初めて自分が毎年、何人の方々に年賀状を出しているかを知った次第。それまでは少なければ「足りないから作って」と頼み、余ればお年玉番号の抽選の時を楽しみにする。枚数なんて数えたことなど無かった。今年、購入した年賀状は、ご不幸があった方の分を除いて50枚。親戚縁者、会社関係は除いた本当に親しくお付き合い願っている人だけなのだから、少なくはないと自負している。そして、この除いたご不幸があった人の中に、年賀状請負人のファンが含まれているのだった。だもんで、今年は自力でやるっきゃないのだ、年賀状作り。
お茶を飲ませてしまったが、緊急入院させたVAIOちゃんは元気に帰って来た。プリンターも従姉妹が「放ったらかしにしてるのが在ったから」と、夏に持ってきてくれたCanonのBJ S500が在る。このプリンター、放ったらかしにされていただけあり埃まみれの見るも無残な姿だったが、私が愛情タップリに拭き拭きしてあげたら♪ピッカピカの一年生のように蘇った。そしてその時に一通り、デジカメで撮った写真の印刷のしかたを教えてもらった。“筆ぐるめ”という、はがきが簡単に作成できるソフトの使い方もやって見せてくれた。その場で、表面用にアドレスを入力しておくよう勧められ、素直な私はせっせと知人の住所を入力した。あらあら私ったら、蟻さんのように夏にキッチリと年賀状作りの基礎は築いてあるじゃないの。
「では、早速に取り掛かるといたしましょう」と、勢い込んではみたものの、50人分以上入れたはずのアドレスが、最初の新井俊子さんしか出てこない。何度試しても、新井俊子様、新井俊子様、新井俊子様…分かった分かった、新井俊子様はわかったから次の石井様に変わってちょうだい。
あっちをいじり、こっちをいじりしても駄目。これは“筆ぐるめ”を教えてくれた従姉妹に泣きつくほか無い。「SOS、“筆ぐるめ”が言う事をきいてくれないよぉ、手取り足取り教えに来てよぉ」。従姉妹は「画面の指示通りにやればイイ」と、冷たい。泣いてすかして「仕方ない、休日に行ってやるよ」の、お言葉を勝ち取った。
そして休日。止めておいたはずの携帯のアラームが煩く鳴っている。休みの日は切っているはずなのにぃと眠気眼のまま携帯を取り“PWRHLD”なる、何でもOFFになるボタンを押した。布団を被り直して「アッ!!」と思った。今のはアラームではなく、電話の呼び出し音だ。携帯を開いてみると従姉妹の携帯からの電話だった。「ごめん、ごめん。アラームと間違えて切っちゃったぁ」に、さすがに従姉妹はカンカン「何時まで寝てんのよ、人が休みを潰して来てやってるのに!!」「夜、眠れなくてサァ、朝早くに目が覚めちゃってさぁ…」必死に言い訳する私に「いいから、早く開けなさい」。そうでした。私は“オート・ロック”の高級マンションの住人だったのでした。
飛び起きて時計を見るとアララ、11時を回っている。大急ぎでパジャマを脱ぎ捨てオオワラワでお着替え、お着替え。昨夜部屋干しした洗濯物をベランダに移動する。
部屋のブザーを押す頃にも、従姉妹のお怒りは静まっていなかった。けれども、ベランダの洗濯物を見るなり「あら、洗濯はしたんだ」「そうそう、早くに目が覚めて洗濯して横になったら寝ちゃったのよ」。どの口が言うのでしょうぺらぺらと嘘八百を。まっとうな家庭生活を営んでいる従姉妹の頭には、洗濯は陽が昇った朝にするものという固定概念があるらしい。おかげで一旦起きて寝たというのが信憑性を帯びてきた。これで従姉妹より怖い我が母、トラうさぎに告げ口もされずに済みそうだ。
従姉妹の噛み締めた苦虫も、私が心を込めて入れたコーヒーでどうやら治まったらしい。「住所録が出ないのね」と従姉妹がPCの前に座ってクリック。アラ不思議、私が必死で探した住所録も、もちろん文章もキッチリと出てくるではないの。どうやらPCは人を見るらしい。
結局今年も、人様を煩わせることによってなんとか年賀状を出すことができる私だった。
従姉妹にお礼?「そのジャンパー、小さいんじゃない? 私なら丁度イイと思うよ」と、身ぐるみ剥いだのは、この私。「買ったばっかりなのにぃ」と言いつつも、新品のジャンパーを脱がされ、私のクローゼットで眠っていたウワッパリを羽織って帰ったのは、わざわざ埼玉の片田舎から出てきてくれた従姉妹だった。ありがたや、ありがたや。