2007-03-04 日
手がっけ
携帯電話を見る度に、ため息が出る。ああぁ、なんでこんなに汚くなってしまったのだろう。
もともと「操作の簡単なものを」と、お店のお兄さんに選んでもらったせいで、手渡された携帯はとってもごっつくて色もグレーと、色気も可愛げも無い。その上、無骨にアンテナまで飛び出している。薄型で、色もピンクや赤のいかにも女性仕様のものを使っている人達が羨ましいが、変えたら途端に使い方がわからなくなってしまう身としては、せめてもとディズニーのシールを貼って誤魔化してきた。
そんなある日、帰宅途中の車内でデコ携帯を持っている女性を見つけた。テレビや雑誌で知ってはいたけれど、実際にライトストーンでデコレーションされた携帯電話を見たのは始めてだった。「これだぁ!」と思った。携帯電話にキラキラとライトストーンをデコレーションすれば、私の無骨な携帯も可愛くなるだろう。確か、百円ショップで爪につけるライトストーンを買って、使わずにそのまましまってある。そうだ、あれを貼ってみよう。
家に帰り、早速ハート型をしたライトストーンもどきの粒々を取り出してデコレーションに挑戦。やり方は知らないけど、要するに貼ればいいのよね、貼れば。携帯の表面にアロンアルファを塗り、粒々をのせる。赤いハート、ピンクのハート、黄色、透明と次々に貼っていく。おっ、いいんじゃない?!
ところが、なかなかいい塩梅と思っていたのは最初のうちだけで、暫くすると、ハートがあっち向いたりコッチ向いたり、枠を乗り越えたりしだした。まずいと思った時には、もう遅い。強力瞬間接着剤と銘打ったアロンアルファは一瞬にして、物と物とをくっつけるのが信条であるからして、ちょっと向きを変えようにも、位置をずらそうにも梃子でも動かせない。“アロンアルファ用専用リムーバー・はがし隊”という救済隊の存在は知ってはいるが、持ってはいない。どう見ても、出っぱったり引っ込んだりした上に、向きがバラバラのデコレーションは美しくない。私の美意識からしたら、これは是が非でも剥がさねばならない。明日にでも“アロンアルファ用専用リムーバー・はがし隊”を、購入して剥がせば良いのだろうけど、今夜このまま放っておけないというのも私の性分。仕方ないので、ここは力技だ。カッターで削り取ることにする。
ああ、これが大誤算。かなりの時間をかけて、ハートの群れを削り取ることはできたけれど、その跡の惨たらしさ。無骨な上に傷までついてしまった。私の携帯電話の表面は、まるでプロレスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャーの額のように凸凹になってしまった。今度はこの傷を隠さなくてはならない。応急処置としてカット絆の変わりに、ディズニーの残っていたシールを貼る。
しかし、使わずに引き出しの隅に残っていたものだけに、あまり可愛くはないし、傷の全てを隠しきれる大きさのものは無い。どんなシールがあれば、傷を隠して尚且つ可愛く綺麗な携帯に生まれ変わらせることが出来るのか。翌日、丸善の文具売り場でシールを探す。これならと購入したのは、1ツが2ミリ程の星型のシール。厚みも有り、光沢も有る。石やガラスの類では無いし、今度はシールなのだからアロンアルファーのご厄介にはならずに済む。これなら楽勝と、傷の上に次々と貼って行く。今度はなかなかどうして、綺麗きれい。
な・な・なぜだ? 突然、列が乱れだした。またたくはずの星のシールも、なんだかボロボロ。1枚位置をずらそうとすると、5枚くらい一編にゴソッとはがれて収拾がつかなくなる。結局アッチが剥がれ、こっちが重なって綺麗なはずの星々が、なんとも言えない“こ汚い”点の集まりと化していた。シールをみつけた時は、光り輝く私のデコ携帯がキラリと光って頭に浮かんだはずなのに。
そうでした。私は昔から母や豚弟から、さんざん“手がっけ”と言われていたのでした。
“手がっけ”とは、70年代の人気ドラマ『寺内貫太郎一家』の中で、樹木希林演ずるキンばぁちゃんが、加藤治子演ずる貫太郎の妻、里子に浴びせていた言葉だ。キンばぁちゃんは大変器用な人で、不器用な嫁の里子さんに対して手が“かっけ”だという意味合いで“手がっけ”と言い放つのだった。一緒に炊事をしていて、包丁の使い方もままならない嫁に向かい「まったく里子さんは手がっけだから」という風に。
『寺内貫太郎一家』は、我が家でも毎週欠かさず家族揃って見ていた。そして、このキンばぁちゃんの言葉が登場した途端、母と豚弟は我が意を得たりとばかりに、何かにつけ私に向かって使うのだった。「まったく、手がっけだから」「手がっけだから仕方ない」と。
確かに、私は子供の頃から絵に描いたような不器用者だった。家庭科の宿題をやっていると、見るに見かねてた母が“手伝う”ではなく、取り上げて最初から最後までやってしまう。それを提出するものだから、教師からは「どんなに下手でも自分でやりましょう」と度々お叱りを受けた。母は独身の頃、近所の洋装店から腕を見込まれ「是非とも養女に欲しい」と言われたくらいに器用な人だし、父もその手先の器用さから古の同級生から頼まれて“命”のはずのお雛様の顔を描くお手伝いをやったことまである。なのになのに、そのご長女さんであるところの私はなんでここまで不器用なのか。幼い頃の姪たちからまで、箸使いを注意され挙句に豆つかみ競争の挑戦まで挑まれて連敗し続けたこともあった。
それにつけても、この傷だらけの汚い携帯、一体どうしたら良いのだろう。ああショック。
携帯電話が喋れたら言うだろう「ショックなのは、コッチの方よ。“手がっけ”のくせに、余計なことしないでよ、このデコ助が!!」ってね。