2005-03-13 日
富士山
♪あたまを雲の上に出し〜
冬の朝、寝室のカーテンを開け、結露のついた窓ガラスを指で拭った先に真っ白な富士山が見えると(今日はいいことがありそう)なんて思ってしまう。やっぱり日本人は富士山よねぇ。
マンションを物色していた時、今の住まいを担当していた営業マンが「西の方角に、天気が良いと富士山が見えますよ」なんて言って来た。どうせ遥かかなたのその又向こうに、じっと目をこらすと富士山と言われれば、そう見えなくもない程度に見える物体のことを売らんが為に言っているのだと思っていた。ところが、これが嬉しい大誤算だった。見えるのだ。確かに西の方角に富士山以外の何物でもないお山がかなりの大きさで。
あら嬉し。これは是非ともカメラに納めねばと帰り道のキムラヤへ。そこで目についたオレンジ色のフレームの、まぁるい体型をした可愛いインスタントカメラ、チェキを購入した。早速、富士山に向ってバンバン、シャッターを切る。でも残念ながらこのカメラはパーティーなどで人物を撮り、その場でわいわい言いながら見るには向いているが、離れた景色を撮るにはちょっと不向きのようだった。フィルムのサイズも名刺を一回り小さくしたくらいだしね。
富士山を写したいという思いはやまず、今度はデジカメに挑戦。アナログ人間だもので遅くてすみません。店員さんに「富士山を撮りたい」の思いを伝えると、望遠機能のしっかりした物をチョイスしてくれた。これがなかなか良い。我が目で見たお山が、画面ではとてつもなく小さくて悲しくなるが、望遠のボタンを押すとグィグィッと成長して迫ってくる。それからは朝の富士山、夕暮れの富士山、雪をいただいた富士山、歌の文句のように、あたまを雲の上に出した富士山と折りあるごとに撮りまくっている。
なんでこんなに富士山が恋しいのかと考えてみた。そこには、日本人という根本的な条件以外に思い当たる事柄がありました。それは、ウフフ“初恋”の思い出よ。私のそれはけっこう遅くて(基準値はどこ?)中学3年生のころ、よくある話よ。相手は風のようにやって来て風のように去って行った転校生。都内から引っ越して来たその人は埼玉の片田舎の中学生とは違い、洗練されてまるで少女漫画に出てくる王子様のようだった。言葉も普段聞き慣れた「俺」「おまえ」いや「オメェ」とは違う。体育の時間に卓球でダブルスを組んだ時「僕が打つときにキミは下がっていてね」なんて言われた日にゃぁ、もぉカルチャーショック。心臓がバクバクし、頭の中がグワァ〜ン、頬がポッ。熱が、熱がぁ。
初恋は成就しないと言われるが、卒業の頃には周りから冷やかされる程度には仲良くなれた。あの頃はまだ学生服の第二ボタンをもらうなんて行為は流行ってなかったなぁ。
卒業すると、当時埼玉の公立高校は殆ど男女別学だったので王子様は男子校へ、私は女子校へ進み気軽に話すこともできなくなった。まだ携帯電話も無い時代の話よ。そして、間も無く王子様は王様の仕事の都合で甲斐の国へと引っ越して行ってしまった。これですねぇ、山梨県と言えば名物は“ほうとう”とブドウと、なんと言っても富士山でしょう。
遠くに去って行く王子様を見送ったのは高校1年生の夏休み。雨模様の、夏とは言っても寒いくらいの日だった。「元気で」と、どこまでも爽やかな王子様の差し出す手をおずおずと握った惠子ちゃんの瞳はうるうる。その後で、惠子ちゃんは高校のプールに入り、流れる涙を誤魔化したものです。ああ、なんて美しい青春の1ページ。それからというもの、遠くの富士山を眺めては王子様が暮らす甲斐の地へ思いを馳せていたものだ。時々は手紙の往復があったけど、いつしかそれも途絶えてしまった。王子様は、その後も王様のお仕事の都合で日本全国、女性の胸をキュンキュンさせながら動き回っているような気がする。でも、だからこそ王子様が王子様のままで私の中にいる。もし今出会ったら、どびん茶びん禿げちゃびんって、見る影も無くなっているかもしれない。いや、元のままであろうはずもないのが世の道理というものだろう。かの天地真理のカムバックを嘆き悲しむ、かつてのファンと同じ思いはしたくないやね。
今朝も富士山がよく見えた。特にピンと張り詰めた、空気の冷たい冬の朝、真っ青な空に白いお山はうっとりするくらいに神々しい。そんな富士山を飽かずに撮りつづける私なのだが、我がマンションから写す富士山には、どうしても目の前にある化粧品メーカーの建物が入ってしまう。そこで、思うのだ。その化粧品メーカーの広報に良い構図の写真を届けたら社報にでも使ってもらえるかも知れない。薄謝などと、何がしかの金子が貰えるかも知れない。いや、金子でなくても、某メーカーのポーラの化粧品(ン?)なら「弊社の製品です」なんて、詰め合わせをいただいても嬉しいぞと。こんな風に世間の塵に染まってしまった今の私、あの無垢な高校生の惠子ちゃんには見せられませんよねぇ。