2005-06-26 日
東京だよ、おっかさん
今年入社した北海道出身の青年に「今度、母が東京に出てくるんですけど、何処に連れて行ったらいいですかねぇ」と聞かれた。そりゃぁ、おっかさんを連れて行くなら、浅草の雷門、上野の西郷さんの銅像がある広場、そして東京タワーでしょう。
せっかく教えてやったのに「真面目に考えて下さいよ」と、言われてしまった。私としては真面目に考えたのだが。「おかあさんて幾つよ」と、聞いてビックリ。聞かなきゃ良かった。「母は、学生結婚でしたので43かな、いや4になったのかな」って。その年齢じゃ島倉千代子さんご推奨の地にも「真面目に考えろ!」と言いたくなるでしょうよ。私が入社した時、大先輩の女性の前で生まれた年を口にしたら「私が入社した年よ!」とショックを隠さずに言われたっけ。あの大先輩の、その時の気持ちがよく分かる。
さて、さて43だか4だかの若いお母さんには、この孝行娘(私よワタシ)が喜寿の母を連れ回した東京名所をご紹介しよう。
母は電車に乗った途端に喜寿から米寿、白寿に変身して必ず座席をゲットする。先日は隣の車輌からまで「こちらにどうぞ」という声がかかった。その時は、ほっと席にかけるのだが、下車すると「席を譲られるようなおばあさんに見えたのかねぇ」なんて言い出す始末。とにかく口は達者なのだ。だから気に入らない所へ連れて行ったりしたら後で煩い。最初に母が私を訪ねて上京して来た時は責任転嫁。自分では考えずに、はとバスにお任せすることにした。
まずは六本木の香港ガーデンという広い広い中華料理店での食べ放題。母は“食べ放題”が大好きなのでテーブルにお皿を並べてご機嫌である。その上この店は、デザートを除いて、自分から料理の所まで足を運ばなくても、熱々の飲茶が次々とワゴンに乗せられて回ってくる。子供がおもちゃでも待つようにソワソワ・わくわく。ワゴンを押す店員さんにあれこれと頼んでは、そりゃぁもぉご満悦だ。
お腹が満たされたところで次に向かったのは、やはり六本木にある“金魚”というお店。ここは、新宿の“黒鳥の湖”や“グッピー”などと同じくニューハーフが歌って踊るショータイムが売りのパブ。最初から内容を言ったら「行かない」と言い出しかねないが、はとバスに乗せてしまえばコッチのもの、目を丸くしようが三角にしようがお気に召すままにしてもらおう。東北からいらしたという中年のご夫妻と一緒のテーブルに案内され、卓ごとに用意された飲み物や食べ物を吟味していると、華やかにショーの始まり。最初のうちこそ「私は何も知らずに連れてこられたんですよぉ」なんて、ご夫妻に向かって言い訳をしていた母だったが、だんだん身を乗り出して見入っているのが分かる。「フー」「はぁ〜」とため息。「本当にオトコォ?」「細いねぇ、綺麗だねぇ」。そして最後に勢揃いのアイリッシュダンスでは、整然とした美しさに女性だろうが男性だろうがニューハーフだろうが関係無いほどの迫力と華やかさがあった。もう母は夢中。出口で見送ってくれた“お姉さん”に頼んで、一緒に撮らせてもらった写真には母の満面の笑みがこぼれている。でも、どう見ても女性のはずの母が引き立て役よねぇ。
次々建った東京の大型ビル。丸ビル、OAZO、汐留、そして六本木ヒルズにも行きましたっけ。大手町のおすし屋さんに寄ってから丸ビルに行った時は、丸の内界隈を巡回している無料バスを利用させていただいた。途中パレスホテルで一休み、なんと塩爺こと元自民党総務会長の塩川平十郎翁にも遭遇した。帰ってからの話のタネができました。しばらくは、ホテルのロビーに置かれた高級そうな椅子に身を任せハイソな気分に浸ってみる。そして、乗るのは又もや庶民の味方、無料の巡回バス。お堀に沿って走るバスの窓から、帝国劇場や戦後マッカーサー元帥が連合国総司令部をおいた第一生命館、国際フォーラムを見て、丸ビルに程近い停留所で下車。「エッ、これが丸ビル?」と疑問を投げかけてくる母。お母さん丸ビルは丸くなんてないんだよ。
東京駅前には丸ビルと対角線にOAZOなるビルができた。その由来はエスペラント語の「憩いの地(オアシス)」。丸の内(マル)と大手町(オー)をつなぐエリアで働く人々や暮らしの潤いを求めやってくる人々に、全て(a to z)を与えてくれる空間、とすごく欲張った名前のついたビルも見学した。
さて東京駅をあとに、今では誰も呼ばないE電に乗りふたつ目の新橋駅で降りる。そしてユリカモメに乗って汐留へ。「ゆりかもめ、ゆりかもめぇ」と初めての乗り物を思い浮かべながら歩いていたら、着いてますよ汐留に。新橋駅から続いてるじゃん。ここで母が見たのは「丸くなった背中が伸びるようだ」と、見上げるビル群と“ハンガーマン”なる大道芸人の繰り広げるバランス芸。その後、ちょくちょくテレビにも顔を出しているようで、その都度母から電話がかかってくる。
ホリエモンもおわすと、益々有名になった六本木ヒルズにも行きテレビ朝日のブースで“ドラえもん”と握手をして記念撮影もいたしました。そう言えばお台場ではフジテレビの人気もの“コニーちゃん”とも握手して“ゴリエ”の像の前でも記念写真を撮ったのだった。
このくらい、東京の新スポットを紹介すれば新人君も納得してくれただろう。で、休み明けに新人君に聞いてみた。「どこに案内したの?」。ところが、その答えは「母は、私の部屋に入るなり、汚い汚いって掃除ですよぉ」。結局、お母さんは東京に滞在された3日間を掃除、洗濯、料理に明け暮れて帰って行ったという。意味無いじゃん。でも、新人君のお母さんにとっては東京見物よりも、可愛い息子の面倒をかかりっきりでみることができたことの方が嬉しかったのだろう。親にはそれが生きがいなのかも。よし、私も次回の母の上京時は思いっきりこき使ってやるぞ。いやいや、そんなことをしたら、あの母の場合は後が煩いだろうなぁ。