女性専用車両が話題だが女性の敵、痴漢という輩は電車の中にだけ生息しているわけではない。

女優、桜井幸子似で友達の間でも美人の誉れ高いかおりちゃんは、出版社に勤めるOLさん。ワインのラベル集めが趣味という酒豪だ。その晩も仕事の後に「とりあえずビール」から始まって何本目かのワインのボトルを空けた時には帰る地下鉄が無くなっていた。やっと捕まえたタクシーに揺られ、日付けが変わってからのご帰還。マンションの手前のなかなか変わらない信号に「ここで下ります」なんて、敬礼をしながら上機嫌でタクシーを降りたのだが、千鳥足はなかなか前へと進まない。わずかな道のりを倍もの時間をかけてやっとこ自宅マンションに到着。マンションは、オート・ロックではあるけれど、郵便受けの並ぶホールまでは誰でも入れる。そこに、とんでもない男が潜んでいた。どうやら、信号でタクシーから降りるかおりちゃんを目撃し後をつけながら、見当をつけて先回りをしたらしい。そして、郵便受けを覗こうとしたかおりちゃんに、後ろから抱きついてきた。「ギャー!!」。自分でも驚くくらいの野太い声が出た。相手はオカマさんかと思ったのかすっ飛んで逃げたと、その時のことをかおりちゃんは振り返る。お酒の勢いもあって、即110番通報。「へんな男にマンションのロビーで抱きつかれましたぁ。早く捕まえてぇ」。この時の声は、ちゃんと女性。真夜中のマンション前に白黒ツートンカラーの車体が程なく現れた。いくらなんでも、これからホシを追うのは無理。様子を説明して下さいということで、かおりちゃんはパトロールカーに乗せられて最寄の警察へ。

かおりちゃん、初めての事情聴取です。一通り説明が終わると、刑事が「では、調書を作りますので…」。ペンの走る音が、かおりちゃんには子守唄に聞こえたのか、その場でアルコール臭を発しながら居眠り、いや熟睡してしまった。さすがに鉄格子の入った取調室ではなかったが、警察で熟睡する女性には刑事さんも、さぞかし驚いたことだろう。「あのぉ、調書を作ってみたんですが内容を確認していただけますか」。申し訳なさそうに揺り起こされた時、かおりちゃんが眠りについてたっぷりと3時間はたっていたという。調書に拇印を押して又もやパトカーでマンションまで送り届けていただいた。そしてその翌日、正確には当日には警察直々の要請により、かおりちゃんの住むマンションにはアッチにもコッチにも防犯カメラが設置されたのだった。

後日談もある。いつものようにアルコールをきこし召してのご帰宅をしたかおりちゃん、鍵を失くしてしまっていることに気づいて真っ青。実家は佐渡だし、夜中だし…。そこで思い至ったのが「そうだこういう時こそ庶民の味方の警察だぁ」。さすがに110番は気が引けるので、先日ゆっくり眠らせてくれたあの優しい刑事さんにおすがりしよう。袖振りあうも他生の縁。カクカクシカジカと今の状況を訴えると、アッという間に「困った時のお助け鍵やさん」のような人を派遣してくれた。「税金分働いてもらったって感じ」と、かおりちゃんは澄ましておっしゃるのだった。やっぱり美人は得?!

さて、ヒロイン変わり今日子ちゃんが痴漢を未然に防いだ話。今日子ちゃんはいつも元気に、足音高く歩く。お住まいは高島平にあるマンションの4階。エレベーターなど使わない。美容と健康のため、階段を踏みしめて腿を高く上げて登る。その日も仕事の疲れなど感じさせない足取りで階段をカンカンと登って行った。すると2階から3階にさしかかる所で凄い勢いで駆け下りてくる青年とぶつかりそうになった。俯いてはいるものの上背もあり、なかなか端正な顔立ちが見てとれた。そのまま、登って行くと3階の踊り場に朝晩、挨拶くらいはする高校生の女の子が涙ぐんで立ち尽くしていた。今日子ちゃんは考えた(ははぁん、別れ話ね。あの青年はこの子に別れを告げて去って行ったのね。嫌いになったわけじゃない、きっとこのまま行ったら、この子を不幸にしてしまう悲しい事情があったのね)。今日子ちゃんが、その女の子に「大丈夫?」と声をかけると、女の子は小さな声で「はい。ありがとうございました」と言って自分の部屋へと向かった。(悲しい別れを必死に耐えて、私にお礼をいうなんてなんて健気)などと思いながら京子ちゃんは4階への階段を登ったのだった。

自室に帰り、着替えて一休みしているとピンポーン。のぞき窓から見てみると、先ほどの女の子が母親と立っている。「先ほどは、娘の危ない所を救っていただきましてありがとうございました。ちゃんと警察にも届けましたので、事情を聞きにこちらにも警察官が来るかも知れません。その際は宜しくお願いします」。どうやら、京子ちゃんが目撃したのは若い恋人同士の別れの一幕ではなく、女高生にいたずらしようとした男性が京子ちゃんの階段を登る大きな足音に驚いて逃げて行ったところだったのだ。暫くして刑事登場。「逃げる犯人とすれ違ったようですが覚えていますか? 体型は? 顔立ちは?」。今日子ちゃん、おずおずながらも答えました「カッコ良かったです。ハンサムでした」

期間限定で再結成していた、あのピンクレディーも歌っています。♪男は狼なのよ気をつけなさい〜 でも、今日子ちゃんは鼻息荒くおっしゃるのだった。「でも、あのハンサムな痴漢、私には目もくれずに走り去ったわね。失礼だと思わない?!」