世の中には、天に二ブツも三ブツも、いやそれ以上に与えられている人が居るようだ。

昨年まで派遣社員として、我が部署の仕事を手伝ってくれていたマサちゃん。顔もスタイルも抜群に良い上に、とっても心根の優しい女の子で、他部署の男性からも注目の的だった。そんな彼女から「通っているウクレレ教室の発表会があります。良かったら観に来て下さい」というメールが届いた。これは行かずばなるまいと日曜日、東京は丸ビル5階「空中庭園」と名付けられた会場へ行ってみた。

ウクレレと聞いて私が真っ先に思い浮かべるのは、漫談家・牧紳二が弾く♪あああ〜ヤンなっちゃった あああ〜驚いた というメロディーだ。それから高木ブーのアロハ姿かな。しかし、実際の演奏を聴いて驚いた。曲名もカンターラなどラテン音楽から、テレビのコマーシャルで耳慣れた曲まで、自然に客席が体を揺らし、手拍子、足拍子をしたくなる。その上、マイ・ウェイをアレンジしてスペイン語で披露といった重厚な楽曲までやられた日にゃぁ、ウクレレの見方を変えずばなるまいて。

お目当てのマサちゃんは中央に陣取ってのヴォーカル。美人でスレンダーで、その上こんなに歌もウクレレも、おまけにタンバリンまで上手だったとは。

マサちゃん、さすがに舞台に上がった直後は緊張の色が隠せない様子だったが、演奏に入ったとたん、とっても活き活きと楽しんでいるのが見て取れる。近くの観客が「あの子、可愛いね」とか「綺麗ね」なんて言っているのが聞こえてくると、まるでわが子が褒められているようで、感激に涙が出そう。私って「泣かない女」で通ってるのにぃ。それにつけても、会わない間により一層、綺麗になってるじゃない。よりスレンダーにも、より色白にもなっているじゃない。嬉しさと羨ましさが交差する。

拍手喝采を受けて舞台を下りたマサちゃんの姿を追ってみる。チラと振り向くが早いか「来てくれたんですねぇ。嬉しいですぅ」って、飛んでくるとこが昔のまんまの飾らない魅力で、これまた嬉しくなってしまう。「これ、いくらに見えます? 1500円ですよぉ」なんて、クルッと回って見せてくれる衣装は、インド更紗のようなプリントのくるぶしまで覆うスカート。やはり美しい人が着こなすと10倍や20倍の値段に見えてしまうから凄い。

「一緒に写真撮りましょうよぉ」なんて言われ、これも嬉しいのだが隣に写るとなるとねぇ、どこから見たって引き立て役でしかないじゃない。母が写真を嫌う心境が良く分かる。顔だってマサちゃんは握り拳グーくらいの大きさしかない。せめて遠近感で目の錯覚を狙い、コッソリと一歩下がって「ハイ、チーズ」。ところが写った写真を見て唖然。もともと身長が10センチ以上違うのに、下がったものだからスラーっとしたマサちゃんの横で、余計にチンチクリンに写ってしまった私が居る。しかも目論んだ以上に顔の面積の違いが出ている。結局、マサちゃんの美しさを際立たせただけだった。ガッカリ。

羨ましい、羨ましいと思いながらマンションに帰り着いた途端に、母からの電話。「今日も、ドコも行かなかったの?」の質問に、興奮覚めやらぬウクレレ教室発表会の話をすると「お前も趣味くらい持たないとねぇ」と、ため息混じりに言われてしまった。そうよねぇ、1人ポッチで趣味も無く部屋に閉じこもって居たら、ちょっと危ない精神に陥りかねない。こんな状況では、幾つになっても離れて暮らす親としては心配なことだろう。でもそれは、自分自身が百も承知の事柄です。

テレビを見る以外は全くの無趣味。無趣味大食なんて揶揄する言葉もあるけれど、食についても「あれが食べたい、これが美味しそう」という思いも無い。常々、知り合いからは「おかしい」と言われ、言われしている身だ。せめて食道楽にでもなれたらねぇ。美味しいラーメンを食べるために札幌へとか、蟹を食べに越前へ、蕎麦をたずねて信州へなんて話を聞いても「へー、ご苦労さま」と思うだけ。行列のできる○○なんていう食べ物やさんなんて、並んでまで食べようとも思わない。近くに200g63000円なんていう、べらぼうな値段のステーキを食べさせるレストランがある。テレビでも、色々な番組で取り上げられ、それを見た友達から様子を聞かれたりもする。でも、たとえ宝くじが当たっても私は、そんな肉を食べる気にはならないだろう。物には適正価格ってのがあるものさ。

映画? 劇場に行くのが億劫だ。それにあの大画面、最近の私の目には優しくない。疲れてしまうのよねぇ。旅行? 一人旅はできません。友は皆、家族旅行に興じている。私も愛しい身内ができたら行こうと、密かにもくろんではいるのだが、これが密かなもくろみのままで一体何年過ぎてしまったことか。今年の秋も味覚の旅なんぞに出掛けることもなく、過ぎていってしまいそうな予感だ。

♪もうすぐ寂しい秋でぇすぅ〜 ♪今はぁもうぉ秋ぃ〜誰もいない海〜 なんて、メドレーで、マサちゃんにウクレレを弾きながら歌われたら、今度こそ本気で泣き出しちゃう。ああ「血も涙も無い」と、言われつづけて久しい私。血も涙も趣味もおとこも無いことを思い知らされる季節が、今年もそこまでやって来ているぅ。