2005-10-02 日
それが誠意ですか?!
友達のウエダは、消費生活アドバイザーなる肩書きの元、東京のとあるデパートで苦情処理の仕事にいそしんでいる。いつも元気印のハリキリウーマンではあるが、時にはとんでもないクレームが入り、頭を抱えることもあるらしい。「手洗いって書いてあるのに、洗濯機でガラガラ洗ってセーターが伸びたの縮んだのと言ってくる人がいる」。「お弁当の袋にペットボトルのお茶を入れ、その中に仕事の資料を入れて、お弁当のツユがこぼれて書類が汚れたなんて言ってくる人もいる」。中には「明らかに、もう何度も履いたと見て取れる靴を、履く前から傷があったと言ってくる人もいるわ」などと、クレーマーの話を何度聞かされてたことか。その都度「そんなこと言ってくる人がいるのぉ、とんでもないねぇ」なんて、ご同情申し上げたり一緒になって憤慨したりしていたのだが、この度この私が客という名の元にクレーマーになってしまった。
場所は八重洲地下街の某店舗。時は9月半ば、知り合いへの誕生日プレゼントを購入。「贈り物ですので包装をお願いします」と言うと「包装は有料です」の返事。身も心も太っ腹の私が、なんで百円弱の包装代をケチるだろうか。「有料でけっこう、包装して下さい」。ちょっと頼りなげな坊やが、ブツを一生懸命に包装する。「代わりましょうか」と言いそうにもなったけど無事包み終わり、〆に箱から出した金色のシール付きのリボンを表面の左肩に貼ってくれた。そして店のロゴが入った、お洒落なビニール袋にまで入れてくれる。このプレゼントを渡す相手は、差し上げたブツはおろか包装紙も、その又外側のビニール袋も几帳面に畳んでしまっておく奇特な人なので、このビニール袋も持ち手は持たず抱えて帰り、そのまま大きな紙袋にいれてしまっておいた。そしていよいよ誕生日。恭しく捧げる私からプレゼントを受け取ったご当人は丁寧にビニール袋から、包装されたブツを取り出す。そして、なぜか苦笑。なんで苦笑? どうして苦笑?
さて、CMも明けたことですし解答です。プレゼントに貼られた金色のシール、そこには“Merry Christmas”の文字が浮き上がっていたのです。嘘でしょぉ?!
一つ年齢を重ねたご当人は穏やかに、しかしちょっと嫌味を込めて「これってクリスマスの残り?」なんて笑っている。贈った私は笑い事ではありません。目の前で開けてくれたから、言ってくれたからその場で反論もできたけど、郵送でもする相手だったら反論の場も与えられないままに冤罪となり、人間関係にもわだかまりが出来ないとは言い切れない。これは、これは重大なことですよ。
翌日、私は意を決して八重洲地下街の某店舗を目指した。もちろん手には“Merry Christmas”のシール付き包装紙を握りしめて。途中、強面の男性について来てもらえば良かったかなという思いが頭をよぎったが、間違ったことを言うのではないと自分を鼓舞しつつ、歩をノロノロと進めたのだった。
まずは「責任者出て来い」でございます。「私が店長です」と、気の弱そうなお兄さん。この間、接客をしていた坊やよりは、年長に見えるものの吹けば飛びそうな優男だ。「先日こちらで○○を購入しまして、有料だという包装をお願いしたのですが…」“Merry Christmas”シールの顛末を話すと店長、シールに目を据えたまましばし絶句。出てきた言葉は「誰がやりましたか?」。ン?「誰って、分かりませんよぉ」。しばし沈黙。そして「あのぉ、どうしたらいいでしょう?」。これにはこちらが唖然で沈黙。しばらくして出た次なるお言葉が「包装代をお返しすればいいですか?」。この言葉に私の頭の中でカッチーン、プッツーン、ドッカーンという音が轟いた。今、耳にした言葉にカッチーンと来て、堪忍袋の緒がプッツーンと切れて、地雷を踏んだ店長がドッカーンと吹き飛んだ音だ。
「それが、そちらの誠意ですか?!」自分でも恥ずかしくなるような言葉が、よくサラッと口をついて出たものだ。さすがに店長「ちょっとお待ち下さい」と慌てふためき、本社だかオーナーだかに電話をかけるため奥へと消えた。何も、因縁つけてゆすりタカリをするつもりで来ているわけではない。でもねぇ、いっくら何でも包装紙代を返せばいいという問題ではないんじゃないの。かなりの時間が経過して、店長が恐る恐る私に携帯電話を差し出して言った「上の者とお話していただけますか?」。上の者が名乗ったので、こちらは名乗らずに上の者の名前を確認する「○○社の△△様ですね!」。事の経緯を説明し、「御社のブツには何の文句もございません、贈った相手もいたく気に入っております」などと付け加えるとこなんざ、私って意外と世慣れてるじゃない。
さて上の者がどんな風に出るのかと思ったら驚いた。「お買い上げいただいた金額の半分をお返しします。それでご容赦いただけますでしょうか?」。ウ・ウ・嘘でしょ?! 半分ってぇ、私けっこうな金額のお買い上げをしてるのですよ。上の者は端数まで正確に言ったので冗談でも思いつきでもない。ちゃんと承知の上なのだ。「いえ、そこまではけっこうでございます」なんて事は言わない。当然ご容赦しちゃう。ただ、現金を手にするのはいかにも気が引けたので近場にあって目に付いたブツをいただいて帰ることにした。そんな時に、あの包装坊やが登場。ご本人は一切、ことの流れを知らないまま私の選んだブツを手に「包装は如何しましょう」なんて気軽に声をかけて来る。「包装はいいです。その辺の袋に入れて下さい」。
さて、思いもかけないほどのお詫びの品に「ヤッタネ!!」と口笛でも吹く気になれたら楽なのだが、なんとなく後味が悪いのよねぇ。私としてはハナから包装代なんて言わずにひたすら謝ってくれたら良かったのに。「これ、弊店特注のティッシュです」なんて、頭を下げながらポケットティッシュの一つでもくれたらそれで気が済んだのにね…ン、これはチト偽善かな。
何はともあれ結局のところ私って、心根の優しい女性なのだということを今更ながら自覚した事件ではあった。