南アメリカの熱帯林に生息する哺乳類、アリクイ目のナマケモノよりも、もっと怠惰な生活を送る私ではあるが、ある日突然憑き物でもついたかのように、遮二無二頑張り「自分で自分を褒めたい」なんていう気持ちになる時がある。それが、1〜2ヶ月前の月曜日、時刻は午後の10時を回った頃だった。

いつものように午後9時からの2時間サスペンスドラマ『月曜ミステリー劇場』を見ていたのだが、これが最近に無い愚作。つっまんないのよねぇ。主演の長嶋一茂のダイコン芝居にも唖然。この人、こんなに下手だったかなぁ、なんて呆れ果てた途端に、俄然放っておいた懸案事項を片付けようという思いが湧き上がって来た。

これが、壊れたワード・プロセッサーの解体。15年以上も前に買った富士通オアシス30AX をバラすことだった。大きさは縦29センチ×横37センチ、そして奥行き14センチ。持ち歩くこともできるデスク・トップといった所だろうか。このワープロには思い入れもある。浜松町の貿易センタービル内でワープロ検定を受けた時も、この my word processor を持参した。と言っても運んでくれたのは、私に「受けてみなよ」と薦めた、職場の同僚だったけど。因みにこの人はワープロの運搬だけでなく「落ちたら恥ずかしくて会社に行けない」と泣く私に代わって、一週間後の結果発表も見に行ってくれた。結果? 受かったに決まってるじゃない。しかもほぼ満点に近いという快挙よ。マ、このワタクシが落ちるなんて考えてもみなかったことですけどね。ホホホ。

拙著『みんなテレビのおかげです』を書いたのも、最初のうちはこのワープロだった。書きあがる度にプリントアウトしては編集長に手渡したものだ。それがいつしかパソコンなる物が普及し、いちいちプリントアウトしなくても原稿をそのまま添付できる、メールなんていう便利なものまで出来た。それからはパソコンオンリー。いつだったろう、悪筆の私は手紙をワープロで書いてプリントアウトして出そうと、部屋の片隅に追いやっていたワープロのスイッチを入れた。入らない。押しても引いても宥めてもすかしても、ガンとしてスイッチが入らない。「あなた、若い子を見つけたら冷たく私を捨てたわね」とでも言うように、あの働き者だったワープロちゃんは、すねたままどうやっても言うことを聞いてはくれなくなってしまった。あのまま使い続けていれば、今でも素直に文字を刻んでくれていたのだろうか。ただただ反省。

でも使えない物は仕様が無い、泣く泣く処分です。ただ、ここで問題です。小なりとは言えワープロとなりゃぁ立派な粗大ゴミ、むやみに捨ててはなりませぬ。業者に頼めば良いのだろうけど、頼み方も知らないし日時を決めて来てもらうのもメンドクサイ。この際、解体し、小分けにしてゴミに出そうと決心した。決心はしたが、非力なこの私、なかなか実行には移せないでいたのだ。それが、この日突然憑き物が取り付いたのだ。それからの私、どこにあんな力が眠っていたのでしょう。「この封筒をご持参の方にはもれなくプレゼント」の封筒を持参して、東京駅大丸でもらったミニドライバーセット。もらってから手にする機会が無かったが、今晩は思う存分働かせてあげる。片っ端からネジをひねって外せる物は全て外す。最初に、直径2cmほどの取っ手の横棒が外れた。背中の被いが剥がれて迷路のように組み立てられた配電盤(?)が出てきた。ヒューズだかコイルだかチップだか、私には名称の分からない物が緑色の薄い板の上に密集している。バッテリーのような重たい部品もある。これも外れるので頑張って外す。赤、青、黄色、緑に白、黒の配線も可能な限りハサミでちょん切る。感電しないよねぇなんて、電源が入らなくなってしまった機械なのに杞憂、杞憂。

薄っぺらな鋼板が2枚、配電盤のような重い塊の緑の板が2枚、プラスチックの箱が分かれた3つの部位、そしてキーボードとパネル部分、プリンター部分に使われた2本の金属棒、それと最初に外れた取っ手の筒。見事にここまで分解したぞぉ。

肩も懲り、指も真っ黒になり、目もしょぼつきだした頃、気分がナチュラル・ハイになって来た。♪ケコちゃんは偉い〜頑張れケコちゃん ルンルンルン なんて即興の鼻歌を歌いながら始めた作業は、脇にあったビスを外し、キーボードを見事3枚におろした後に、キーをボードから1個1個外すこと。これは、キーの下に大きめなハサミを差し込み、梃子の原理で跳ね上げる。すると板から外れた、字が印字されたキーの部分と補助のように細い軸についた枕のような部分が、天井まで届く勢いで飛んで行く。子供が新しい遊びを発見した時のように目を輝かせキャッキャッとはしゃぐ、けっこう年齢の行ったお姉さんがそこに居た。それにしても、よぉく飛ぶのよねぇ。山形で行われるさくらんぼの種飛ばし大会の向こうは十分に張れるはず。ところで時刻はと見ると、既に26時。今日は月曜日。ヤバッと気づき、それから部屋中に飛散した1センチ四方のキーと、キーの枕(?)を拾い集める地味な作業。一体夜中に私は何をやっているのでしょう。

さて、一応できる限りの解体は済んだものの、これを上手にゴミとして出さなければなりませぬ。へんな出し方をすると管理人さんに叱られます。なにしろ平生から「きちんと分別して出しましょう。管理人さんは大変です」と、張り紙をしているような人ですから。この一大イベントを始める前に見ていたのは『月曜ミステリー劇場』。やはりここはサスペンス・ドラマのように小分けにした袋を夜中にそっとゴミ収集所に出すのが一番刺激的。山に埋めに行くには車も無いし、ゴールドのペーパードライバー。秋の気配の中で、ちょっと猟奇犯の気分でも味わってみるとしますか。ゾゾゾッ。