2006-01-08 日
バリウム排泄物語
東京でも雪が降ろうかという寒い日に、霞が関ビルに行って人間ドックを受けて来た。例年は、お泊りコースで横浜のランドマーク・タワー内にある診療所に行っていたのだが、今回は一緒に行ってくれる智子さんの都合で半日コースとなった。売れっ子の智子さんは終わると跳んで帰って家族のために夕飯の支度、そしてご自分は職場の忘年会と大忙しだ。お茶っぴきの私は「奥様は大変ねぇ」と言いながら、帰りがけに整骨院に寄ってトロけていた。
ところで、前回までは朝食をしっかり食べる派の私には「夜9時以降の飲食は禁止」がとてつもなく辛かった。あまりに辛かったので「当日の午前5時までなら、砂糖もミルクも入れない紅茶を飲んでも良い」の一文に縋って、普段なら絶対に起きない早朝にティータイムを決行したりしたものだ。しかし今回は「朝は排泄の時間、食べるのは極力抑えましょう」という、何で見たのだか分からないお題目に従って、朝をヨーグルトとコーヒーに変えてからしばらくたつものだから、診療所のある霞ヶ関ビルまで行く途中で、モーニング・セットのたて看板を見てもさほど誘惑に苦しまないで済んだ。これも日ごろの修行のおかげ(?)。
余談だが、このヨーグルトは2年以上前から自分で作っている“カスピ海ヨーグルト”だ。消費生活アドバイザーであるウエダにあげたら「失礼ながら商品科学研究所で調べてもらったわよ。人体に有益な菌以外は何も検出されなかったって」と報告があった。全くもって失礼なヤツではあるが、お陰で“お墨付き”を貰うことができた。巳年の執念深さか、悪女の深情けか、一度始めるとずっと続ける習性が私にはあるようで、種を上げても駄目にしてしまう人や飽きてしまう人が多い中、1日も欠かすことなく作っては食べ続けている。こんな性格のせいなのかしら「辞める、辞める」と言いながら、同じ会社に通い続けているのは。
さて検査の内容だが、A〜Zまで表にされたものは全部受けなくてはいけないというわけはなく、けっこう拒否することができる。私は乳がんの検査で行われる乳房のレントゲンを断った。だって、撮影のための2枚の板がイヤっていうほど乳房を挟むんだって。つぶしてつぶして、より平にして乳房を写すんだって。そして、その行為は挟むのさえ難しい貧乳になるほど痛いんだって。痛みに弱く、つけてみたいピアスの穴をあけることさえできない私は断固拒否「触診だけにして下さい」と、お願いした。さて、その触診。若い男性の医師だったのだが、障害物の無い我が胸囲を雑巾がけでもするように、両手ですいすい通っておしまい。「大丈夫、異物には触れませんでした」。きっと「胸にも触れた気がしません」と言いたかったことだろう。
一緒に行った智子さんは胃の撮影をパス。実は前回でかなり懲りたらしい。まずはバリウム。これは皆、飲めたものではないと言う。胃を膨らます発泡剤をゲップを耐えて、バリウムで流し込む。バナナ味や苺味はついているものの、あのドロリとした重量のある液体を飲み込むのに、口の周りを真っ白にしながら四苦八苦している人が沢山いる。けれども私は大得意。レントゲンの技師が「まずいでしょうけど、ガマンして一気に飲み込みましょう。飲んでいる様子を撮影しますよ」なんて、かなり気をつかい子供を諭すような口調で言ってくれているが、私はあっけないくらいにグビグビと飲み干す。「ゲップも、難しいでしょうけど耐えて下さいね」なんて言われても、立っている台を廻されても逆さ吊りみたな角度にされて「苦しいですね。もう少しですから頑張って下さい」と言われても、まったくもってヘッチャラなんだからお気遣い無く。「はい、ご苦労様でした。台を戻します。止まったら静かに下りて下さい」なんて言われ、放射線室のトビラを恭しく開けていただき「口をすすぐのは出てすぐの洗面所をお使い下さいね」なんて優しく声をかけていただきながら、いかに他の人たちが辛い顔で受けているのかを想像する。教えられた洗面所で、嫌いではないバリウムの後味を形ばかり漱ぐ。そしたら思いっきりゲップの3連発が出た。
前回は、バリウムを排出するためにもらった下剤を直ぐに飲んで、智子さんと食事に行ったら、オーダーしたレディース・コースのスープも出ないうちから2人でもよおし、代わるがわるにトイレ詣で。レストランの黒服に蝶ネクタイのボーイさんが「お揃いになってから、お運びします」というメイン料理なんて、永遠に出してもらえないのではないかと思うような状態だった。その事も智子さんには相当応えたらしい。私は、轍を踏まないように食事が済むまでは、もらった下剤を飲まないことにした。そして、帰り道も怖いので結局、家にたどり着いてから「大量の水と共に」と書かれた通り、300cc は優に超える量の水で紅い2粒の下剤を流し込んだ。時刻は午後4時。6時間ほどで効くと聞いたから10時かぁ。楽しみにしている9時からのドラマが終わった頃かぁ。ところが、10時からのニュースが始まっても、心配しながら入ったお風呂から出ても、全くもってもよおさない。お腹の中でバリウムが固まってしまったら、どんな具合になるのだろう。お腹の上に大きな石を置いて、ハンマーで他の人に叩かせるなんていう荒業は、バリウムで固まったお腹をもつ人がやっているのかも知れない、なんてね。
体調も悪いわけではなし、そのままベッドに入る。2日間バリウムが出なかったらご連絡下さいと書かれた紙を渡されていたので、2日間は猶予ありということだ。そして、夜中に衝撃的な腹痛で目がさめた。猶予期間中にどうやら荒行とは無縁のお腹に戻れたようだ。ホッと胸をなでおろし、改めて「硫酸バリウム製剤による胃X線検査を受信されたみなさまへ」という、下剤と一緒に手渡された用紙を読んで驚いた。そこには「検査後バリウムが長時間腸内に残っていると極端な場合は消化管穿孔(消化管に穴があく)、腸閉塞(消化管にバリウムがつまる)、バリウム腹膜炎などの重篤な症状を引き起こすことがあります」だって。ゾゾッ。多少、レストランで恥をかくことがあっても、皆様バリウム後の下剤はお早めに。