2006-01-15 日
寒がり楊貴妃
今年の冬は寒い。半端じゃなく寒い。脳みそも凍りそうだ。誰だ「暖冬」なんて予報を出したのは。
私は人後に落ちない“寒がり”である。毎年、冬が近づくと冬眠できる熊達が羨ましくなるくらい寒さが苦手だ。頭の巡りだけでなく血の巡りも極端に悪くなり、指先からは色が抜けてしまう。最近はできなくなったが、しもやけの痒さにはどれほど泣かされたことか。特に足の小指なんて、痒いのを通り越して痛くなる。何かの角にでもぶつけたひにゃぁ、ウッとつまって声が出ないくらいの痛さだった。寒さに体をちぢこませているものだから肩が凝る。乳母日傘で、あまりに大切に育てられたせいだろうか。いや、超の字がつきそうなくらい、寒がりの父のDNAをモロに受けてしまった所以に違いない。親からもらい受けるDNAは選べないから困る。母は暑がりの部類で冬場でも薄着のうえに、ちょっと動いてはうっすらと汗をかいている。弟は母の方のDNAを受け継いで、真冬でも半袖のTシャツで平気だ。外出の時は「みっともないから」と、家族が長袖の服を持って追い掛け回している。私は羨ましくてたまらない。私が薄着を楽しめる時期なんて1年で本当にわずかだ。秋や冬に、ファッション雑誌に載っているような薄着で、街を颯爽と歩くなんてのは夢のまた夢、夏場だって冷房が怖くて長袖の上着を手放せないでいるくらいなのだから。
母の、色白のもち肌も弟が受け継ぎ、もっちりとした白い肌に、ふくよかな胸まで大威張りで、これ見よがしに持っている。それに引き換えこの私は、父から譲られた精悍な黒い肌と引き締まった胸…まったく神は何をお考えかと問いたい。
飲み物も、真夏だって熱っついお茶を飲んでいた父といっしょで、アルコール以外は温かいものしか飲まない。アイスクリームやカキ氷なんてよっぽどのことが無ければ食べたいとも思わない。仲間で前世は何だったのかという会話になった時、いの1番に「クレオパトラ」と名乗りを上げたのは恭子ちゃんだった。清子ちゃんは「マリー・アントワネット」だって。すると残るは…やはり、楊貴妃か。中国の貴人は冷たいものを口にしないと聞いたことがある。やはり私って楊貴妃の生まれ変わり? 皆、悲劇の最期を遂げた女性だが、美女って悲劇が似合うのよね。後から会話に加わった智子さんが、家に帰って旦那さんにその話をしたらしい。「みんなよく言うわよねぇ。ところで私は誰の生まれ変わりかしら」。あれこれ世界の美女を思い描きながら待つ智子さんに旦那さんが言った答えは「やぎ」。やぎなんていう名の美女は聞いたことがない。どうやら動物の山羊というのが旦那さんの真剣に考えた結果、出した答えだったらしい。お手紙を食べた白山羊さん?
白山羊の智子さんは暑がりさんで、いつ会っても薄着だ。真冬でも長いコート姿を見たことがない。手袋だって殆どしない。ただ一つ、真赤なカシミヤのマフラーは大事そうに、しっかり首に巻いている。これは「やぎ」と言った旦那様からの誕生日プレゼントだとか。そりゃ暖かいことでしょう。
私には、マフラーをプレゼントしてくれる旦那さんが居ないので、代わりに(?)なんでもかんでも巻いたり被ったりして寒さを凌いでいる。だから、暖房効きすぎの喫茶店にでも入ろうものなら大変だ。まずはニットの帽子を脱いでマフラーを取って、手袋を外しコートを脱いで、上着を脱いで、カーディガンを脱いで、それでも暑かったら関節にしたサポーターを引き抜き、トイレで貼り付け型のカイロも腰から剥がさなきゃならない。「軽くコーヒーでも」のはずが、防寒衣類の着脱の方に時間がかかる。寒がりの私が年に数回、汗だくになるのはこんな時だけだ。ネコは1年に3日しか暑いと感じる日が無いとか。その3日はいったいどんな様子の日なのだろう。
毎年この時期になると、札幌ののぞみちゃん母娘が2月に開かれる雪祭りに「おいで」と、誘ってくれる。とっても有り難いお申し越しではあるが、北海道などという熊が住む極寒の地に行ったら飛行機から降りた途端に凍え死ぬぅ。かの地の人に言わせると「気温がマイナスなんて当たり前、シバレルという言葉はマイナス10度以下にならないと使いません」とか。2月の北海道なんてきっとしばれることだろう。あたたかい部屋の中で、送っていただいた雪祭りの絵葉書を見ながら、その雪像を楽しむのが恒例となっている寒がりで根性無しの私だ。
それにつけても、人間の英知とは素晴らしい。昔々は、暖を取ると言ったら火鉢かせいぜい炬燵だけだったのが、ストーブにヒーター、床暖房、それに眠る時は湯たんぽからあんか、今では電気毛布。ベッドに入る30分くらい前から高めの温度設定でスイッチを入れておく。お風呂から出て、即布団に入らないと直ぐに湯冷めをして、冬場は2度も3度も入浴しなおしてから寝ていたのに、電気毛布のおかげで布団に体を滑り込ませた途端のぬくぅ〜っとした幸せ、ああ現代に生まれて来て良かった。クレオパトラもマリー・アントワネットも楊貴妃も、この幸せは知るまいて。
外に出る時にも様々な、至れりつくせりの使い捨てカイロが売り出されている。貼るタイプはどんどん薄型になっているし、靴に入れてつま先から温まることのできる物、土踏まずにピッタリフィットの物、膝につけるサポーター式の物まである。これもキッチリ試してみたが、やはり膝の関節の動きは激しいらしく気付いた時には足首まで落ちていた。スカートじゃなくて良かった。ブーツに長めのパンツを履いていたので外見からは分からなかっただろう。ホットしました。(サブッ)
テレビドラマに出てきた、私の好きな会話に「なんで結婚したの?」「だって寒かったんだもん」というのがある。やはりどんな暖房機器も、人の温かさに勝るものはないようだ。
寒がりの私に、どうぞ暖かい愛の手を。