大阪に赴任中のゆかリンは、周りから“不思議ちゃん”と呼ばれている。顔が?マークに似ているわけでも、挙動不審だからというわけでももちろんない。そのニックネームの所以は、彼女の趣向にあるようだ。今話題のスピリチュアル・カウンセラー、江原啓之氏の出演するテレビ番組「オーラの泉」を逃さず見ているのはもちろん、本を片っ端から読んだり講演会に足を運んだりしては、その時受けた感銘を周りの人達にとうとうと語る。あるいはフィンドホーンという、スコットランドの北の端にあるスピリチュアルなコミュニティでの暮らしに憧れて、真面目にホームスティを考えたりしている。そして“バッチフラワーレメディ”と呼ばれる、英国人のバッチ博士によって生み出された癒しのシステムも熱心に勉強している。これは野生の花から採取したエネルギーを飲むことによって、精神のバランスを整え、自然治癒力を高めることができるというものだ。アロマセラピーの飲料版といったところだろうか。その類に一切興味の無い者にとっては、精神世界に住んでいる彼女はやはり“不思議ちゃん”と呼んでみたくなる存在ということになるのだろう。

赴任先の大阪から、有給休暇を取って横浜の実家に帰って来た時に、我がマンションにも顔をみせてくれた。その際“不思議ちゃん”ワールドへのいざないが、この私にも伸びて来た。江原さんの講演会は「5分で完売」とかで、彼女自身のチケットさえ手に入れるのが困難な状態。これでは私に出番は無い。そして、門外不出の私故一緒にフィンドホーンへ行ってホームスティをしようというお誘いは、丁重にお断りした。すると、せめてもと大阪に帰ると直ぐに、“バッチフラワーレメディ”を私のために調合して宅急便で送ってくれた。幾重にもプチプチビニールシートで包装されたスポイト付きの小さな茶色い遮光ビンに入っており、ラベルには調合された花の名前が丁寧に記入されている。

アグリモニー、ホリー、ミムラス、ゴース、ハニーサックル。最高でも調合するのは6種類までと決められているらしいのだが、私には5種類もの花のエキスが必要だったようだ。ちなみに、それぞれはアグリモニー=うわべは明るくふるまっているが内心は悩みでいっぱい。ホリー=人に対して嫉妬心、嫌悪感、疑い、恨みなどの攻撃的な感情を抱く。ミムラス=原因がわかっている恐れや不安。内気な性格。ゴース=絶望して、何をやっても無駄と思う。ハニーサックル=過去の思い出に浸って、懐かしんだり後悔したりする、という症状へ効果がある花々だ。私って、後悔したり悩んだり、嫉妬に狂ったり絶望感にさいなまれながらも、うわべは明るく振舞っているというなんとも悲しくも健気な女性だったのね。

さて、ゆかリンが私のために調合し送ってくれた“バッチ・フラワーレメディ”ゆえ、ご指示に従い茶色のボトルからスポイトで4滴、1日に4回を朝起きた時、瓶ごと会社に持って行きランチ前と退社前に、そして就寝前に4滴と律儀に飲み続けている。味は殆ど無い。スポイトの先に鼻を押し当て嗅いでみると微かにお酢のような香りがするが、飲んでみると、その香りすら消えてとっても微妙。その効果の程なのだが、気分は爽快で体中にやる気がみなぎりリポビタンDを飲んだように「ファイトォ1発!!」と叫んでしまう、というなら素晴らしいのだが。眠い、ひたすら眠い。1日中眠くて眠くてたまらない。日中は、一応会社勤めの身であるし、活動の時間なので眠りこけてしまうことは無いのだが、家に帰り着くと半端じゃない睡魔がドッと押し寄せて来る。1番何に影響が出るかと言うとテレビだ。中学3年生で、進路を決める教師、親、本人の三者面談の席で担任教師に「テレビの虜になっているのは誰ですか?!」と言われるくらい、テレビ大好きでテレビ漬けの毎日を送っている私の身に、睡魔のせいでドラマを最後まで見ることができないという、わが人生始まって以来の珍事が起こっている。番組改編時なので、毎週楽しみにしていたドラマが次から次から最終回を迎える。これは見逃せないと思い、外食は控えて飛んで帰りテレビの前に座るのだが、あらら上の瞼と下の瞼が…。結局、最後の最後の10分ほどを居眠りしていて肝心な終焉を見ることができない番組が幾つもあった。お馴染みの2時間サスペンスも、断崖絶壁に犯人と思しき人が追い詰められ、最後の謎解きという辺りで、しっかり瞼が閉じてしまう。臍を噛む思いという言葉を、実感した春だった。

ゆかリンが、状況を聞かせて欲しいというので正直に睡魔襲来を知らせると、それは利き始めている前兆だと言う。変わるための準備期間なのだと。ホンマかいなとは思うものの、律儀な私は今日も1日4回4滴ずつを守っている。こうなりゃ、最後まで人体実験のお手伝いです。

そうそう、不思議ちゃんが生年月日を教えてというので知らせると、前世を見てもらってやるという。どこのどなたにみてもらったのかは分からないが「姫宮さんの前世はVIPです」との話。「前世でVIPとして、贅沢三昧な人生を送ったから今生ではその分の苦労があるらしいけど、それが与えられた試練です。今生での修行ですから」って。確かインターネットの占いサイトで、自分で試してみた時の前世は「平安貴族」と出た。毎日、碁などをして優雅に暮らしていたらしい。どうやら、何でみても私の前世は相当に恵まれていたらしい。そしてその分、現世の私は苦労をしなくてはいけないらしい。

親の因果が子に報いなんて言葉は聞くけれど、なんだって私は前世のつけを払わされなきゃならんのか。オーイ前世の私、あとに続く私のことを考えて行動しろ!!って、今言ってもなぁ…。