北海道が好きだ。「I LOVE 北海道」ってやつだ。(本当はLOVEを紅いハート型にしたいとこなのだが、そんな技術を持ち合わせず残念)

初めてかの地を訪れたのは、稚内での友達の結婚式列席のためだった。青函連絡船がまだ運航されていた頃で、群青色の海のうねりに感激しながら本州を後にした。何しろ初めての北海道、行ってみたい所、食べてみたい物がわんさかあった。ああそれなのに、稚内は遠いあまりにも遠い。(稚内にさえ行かなければ、アッチもコッチも行けるのに)と、最初に結婚式ありきを忘れ、稚内の地がうらめしく思えたものだ。

連絡船で着いたのは青函の文字の通り、函館。海に出て、かもめの舞う砂浜を走る乙女一人。ああ私はかもめ、絵になるなぁ。な・なんなんだ絵の中に豚と狸が入って来たではないの。そうでした同行者に、自分も行ったことのない北海道について行くと言って聞かなかった豚弟と、札幌出身都内在住のこの度の花嫁の伯父さんなる人が案内役を買って出てくれ、上野発の寝台特急から3人一緒だったのだ。これって、夏目雅子か深津絵里演じる三蔵法師が、猪八戒と沙悟浄を連れて遥か北の地を目指すという図になるのだろうか。はて悟空、悟空はどこじゃ?

荷物をホテルに預け、坂の町函館を散策。じっと手をみた啄木さんの碑もみつけたし、函館山ではキタキツネとも遭遇。帳が下りるころには100万ドルの夜景を目の当たりに、その美しさに見とれながらも、寒さにお初にお目にかかるドテラを着込んだ団体客に身を寄せて暖を取ったものだった。だって寒いんだモン。そう言えば、9月の頭の北の地の電車は、天井で扇風機が回っていながら、足元はスチームがガンガン効いていたっけ。

翌日は登別まで移動。クマ牧場を見学してから♪ここは北国登別の湯〜に入った。その広さは、温泉地までもデッカイドー・北海道だ。でも、大きさよりも驚かされたのは「女」の暖簾をくぐって入った浴場が、先に進んでいくとどこからか混浴になっていた事だ。女のカンで水着を着て浴場に入った私は、ホッ。猪八戒や沙悟浄にあやうく柔肌を見られるトコだったぜ。

翌日、自然満載の知床を目指すという豚弟と別れ、花嫁の伯父と花嫁の友人は花嫁の伯父の弟さんの住まいがある札幌を目指した。「やーや、ハルミちゃんのお友達かい」と、なんとも人懐こい笑顔で、花嫁ハルミちゃんの義理のオバサンにあたる方が出迎えてくれた。「北海道、初めて? 疲れたっしょ。ささ食べて」と出されたオレンジ色のメロン。その時、夕張メロンというものを初めて見た。そして、その大胆な切り方に感激。なんとメロンを半円の状態で手渡されたのだ。添えられた匙だって、カレーを食べる時に使うような大きな物だ。私は、プリンス・メロンだって六等分されたのしか食べたことがない。マスク・メロンなんて言ったら、結婚式の最後の最後に、お皿の上で立っているのがやっとですぅという状態の薄さのしか食べたことがない。なのに半円よ半円。しかも旨い!! 北海道ってイイナ。すっかりファンになってしまった。(食べ物の力って凄い)。その日の夜は、食後に花嫁の伯父兄弟が若い頃から通っていたという飲み屋さんに顔を出したり、露天商をひやかしたりあっという間に日付が変わっていた。

さて、いよいよ稚内に向かって出発。やっぱり稚内は遠かった。随分と長い間、車窓の景色を見ていた気がする。稚内に近づくにつれ、植物がだんだんと背が低くなり、笹だけが目につくようになって行った。稚内に着くと、せっかくだからと最北端の地、宗谷岬へ。「この海岸にはメノウがウジャウジャあるんだよ」という花嫁の伯父の言葉を信じ、浜辺でメノウ探し。海水に濡れた石は、どれもこれも光り輝き貴石に見える。片っ端からビニール袋に入れて宿に持ち帰ったが翌日、乾いたそれらの“メノウ”は、どこから見ても“石ころ”でしかなくなっていた。

式の当日、私は教えられた美容院に行き、髪をセットしてもらうことにした。しかし、通りに出て、待てども待てどもタクシーが通らない。やっとこ来たと思ったら逆方向。ええい、ものは試しと向かう方向を指差すと、なんと道の真ん中で思いっきり方向転換。しかも、その愛想の良さ。益々、北海道が好きになる。

美容院で、私は事故に巻き込まれてしまった。ここでも「や〜や、東京から来たのぉ。遠かったっしょ」とはちきれそうな笑顔で迎えられ、髪を洗ってもらっていたのだが、奥の方でヴァンだがヴォンだかという破裂音がした。そして「ひゃぁ、どってんこいたぁ」と、中学生くらいの男の子が真っ黒な顔をして扉の奥から店へ飛びこんで来た。どうやら、店の奥の居住空間で、ストーブの掃除を試みたところ、そのストーブが思いっきり煤を吐き出したらしい。私は危ないからと、首にタオルを巻き髪も濡れたまま店から前の道路へと追い立てられた。火をつけていたわけではないので、たまった煤を吐き出すとストーブは、何事も無かったように静かになった。「このタクランケがぁ、あんまりチョスでない」と、美容師のお母さんは息子さんを叱りながらも明るい笑顔は変わらない。息子が、自分から進んでストーブの掃除を始めたことは嬉しい出来事だったのだろう。少々きな臭い美容室に戻り、洗髪からのやり直し、そしてセット。丁寧に仕上げていただき、お金を払おうとしたら「あずましくなくってねぇ」と受け取ってくれない。「それでは困るから、せめて半分でも」と、支払おうとするのだが「な〜んも。いんでないかい」。私の北海道大好き心がどんどん大きくなって行く。

さて、家に帰ってからは豚弟が「知床のかもめは海の上を這うように飛ぶんだぞ」とか「海こに沈む夕日が四角に見える所があるんだぞ」とか「海から昇る日の出を見ていたらゴジラが出てきそうだった」なんて分かり易い形容をして「夕日見たか? 日の出、見たか?」と聞いて来るが、「ドッチも寝てて見てない。海ではメノウ探しに眼の色を変えていた」としか答えようがない姉だった。でも、たった1回の旅で姉弟は共に、頭の天辺からつま先まで「I LOVE 北海道」になって帰って来たのだった。

そうそう肝心の稚内での結婚式だが、北海道では一般的だという会費制の体育館で執り行われるものだった。因みにこの新婚さん、新居用の家具を買って引いた籤で、ハワイ旅行を引き当てたという幸せものだ。この運にあやかれれば、もっともっと北海道を好きになるのだけど。