2004-07-01 木
冬ソナ
韓国ドラマ『冬のソナタ』が、半端じゃない人気だ。韓国では3年前、日本でも最初に放映されたのはNHK・BSで昨年4月のことだった。それが今、私の周りでも、はまりまくっている友がウジャウジャいる。
NHK・BSで早々に見て、「イイから見て」と教えてくれたのは福岡在住のれい子だった。東京に遊びに来た折に、いかに素晴らしいドラマかを彼女は熱く語ってくれた。自分の思いを伝えようと一生懸命に話してくれているのは分かるのだが、ドラマの内容はまったく分からない。
まず、配役の名前について行けない。欧米のロバートやらキャサリン、ジョージ、メアリーなら聞き覚えがあるが、チュンサン、ミニョン、ユジン、サンヒョフなど、耳慣れないから覚えられやしない。同じ人を呼ぶのに、濁ったり濁らなかったりの法則もあるらしく、余計にややこしい。どの名前が男性か女性かすら分からない。
「へぇ」「ほぉ」と、相槌はうつものの全く絵が浮かばないのだ。私と同じ思いをした友が居る。彼女の場合は東京から福岡に出かけ、れい子の家に立ち寄った際に、そのドラマの素晴らしさを同じように聞かされたのだ。挙句に「ビデオを貸すから持って帰って見てよ」と、熱い思いで、自分が録画したビデオを持たされてた。全20話。「一話ずつ撮った20巻と、3倍速で撮った3巻と、どっちがいい?」と聞かれ、迷わず3巻を手にしたそうだ。それは、誰でも同じだったろう。
そして彼女は義務感だけでテープをデッキにかけた。結果。夜も寝ずにビデオに没頭するという症状に陥るのだった。そして、彼女は自分が見終わってから会社にそのテープを持参してきた。福岡から義務で持ち帰った時とは打って変わり、珠玉のテープを周りの友達にも是非見せたいという強い思いで。そして、そのテープは寝不足の連鎖を起こしながら何人もの女性の間を巡り出した。
かくいうワタクシ、物心ついてからこの方、映画やドラマで泣いたことが無い。血も涙も、もちろん鼻水なんぞも無いもので、福岡のれい子に始まって、テープを運んだタカコさん、そして大沢さん、ミドリさん、睦子さん、そしてマホさんが感涙に咽んでも「あら、ソ」てなもん。んなわけで、周りから白い目で見られている。皆が一度は泣かそうと、こぞって自分が一番泣けるビデオなんぞを貸してくれるのだが「どうだった?」と聞かれ「どこで泣いたの?」と応じ、あきれ果てられる。ヨン様ごめんなさい。私はあなたのドラマでも泣けませんでした。
一体何人目だっただろう、マホさんにテープが渡った時にその「事件」は起きた。
マホさんには二人の男の子がいる。今年小学校に入学したピカピカの一年生太君と二歳になったばかりの陽君。「普段二人に、乱暴者はお巡りさんに連れていかれるんだからね」と言って、マホさんは躾けていたという。
マホさんは『冬のソナタ』のテープがまわってくるのを、それはそれは楽しみにしていた。何しろ、ビデオを見る前から主人公を演じた韓国俳優ぺ・ヨンジュンの大ファンになり、写真集を購入、ドラマ関連の携帯ストラップまで買って持っていたくらいなのだ。携帯電話は持っていないのに。
マホさんは、ビデオを持って帰ると、まずはその日ご主人と一晩中見ていたそうだ。「ご主人もドラマ好きなの?」と聞いてみると「そうではなくて、私が泣いているのを見て、笑っているのよ」だそうな。そして翌日は土曜日。朝から一刻も早くビデオを見たいの思いで、家事は普段の倍速で済ませることが出来た。そして、自分が静かに鑑賞できるよう、子供達用にもアニメのビデオをセットした。自分は寝室で、二人の子供はリビングでの優雅なビデオ鑑賞会のはずだったのだが、子供達が静かにアニメに見入っているのは1時間がやっと。リビングで兄弟喧嘩をする様子が聞こえてくる。ティッシュで感涙を押さえつつ、マホさんはリビングに行き、違うアニメをセットしながら、駄目出し。「暴れたりしたら、お巡りさんに連れていかれるよ。大人しく『アンパン・マン』を見ていなさい」。
それから約一時間。『冬のソナタ』も佳境に入り、マホさんの周りが涙と鼻水で濡れたティッシュだらけになった頃、太君がコードレスの電話機をマホさんに突き出した。「お母さんに代わってって」「?」。マホさんが代わると、受話器の向こうから聞いたことの無い声の男性が言った。「こちら成城警察ですが、お子さんからアキラが暴れているから連れて行って下さいという通報が有りました。どうかされましたか?」。
その時のマホさんの感想は「グァ〜ンよぉ」。どうやら、アニメのビデオに飽きて暴れ出した弟に、お兄ちゃんが業を煮やして110番通報したらしい。日ごろ、お母さんに言われている通り、乱暴している弟はお巡りさんに連れて行ってもらおうと。このご時世、通報を受けた警察署内にも、スワ家庭内暴力かと緊張が走ったことだろう。アキラが2歳だなんて分からないわけだし。「すみません、間違いです」と受話器に向かって平謝りするお母さんに「間違いじゃないよ!!」と、お兄ちゃんは不満顔だったとマホさんは言う。「乱暴した子はお巡りさんに連れていかれるんだからね」と。
マホさんが夢中のヨン様。微笑みのプリンスも、まさか海を渡った日本で自分の人気が警察沙汰まで引き起こしているとは、想像だになさらないだろう。