第二夜「知念里沙の場合」(三)

翌朝、三丁目の公園で野良たちの「まぶい捜索隊」が結成された。

前夜、ニャン五郎を先頭に公園近くの道路や側溝、植え込み、建物の狭間など、あらゆる場所を探したが、里紗のまぶいと思われる亜尾のおもちゃは見つからなかった。がっかりして公園に戻った一同を出迎えたのは、「お前たち、また人間にちょっかいを出しているのか」という、おたか婆の嫌味な一言だった。二夜王とニャン五郎は露骨に不機嫌になって、へたり込んでいたが、玉三郎は「でもね、ばあちゃん。この娘 (こ) の魂だっていうんだ。魂をなくしちゃまともに生きて行かれないよ。かわいそうじゃないか」と訴えた。

「落とした奴が悪いのさ。自分で探しゃあいいじゃないか」と、素っ気ないおたかに、「おばあちゃん、一緒に探してくれない? このお姉ちゃんの球だっていうけど、見つけたのは僕なんだ。だから半分は僕の球なんだよ。すっごく面白い球なんだぜ」と亜尾も泣きついた。

自分の孫のように亜尾を可愛がっているおたかは、ちょっと困ったように、前脚で顔をなぜている。砂場に転がっていたニャン五郎は「よせよせ、へそ曲がりの婆ぁに頼んだって無駄だよ。第一、もうろくして目だってろくに見えやしないんだから、役に立ちゃしないさ」と毒づいた。

へそ曲がりには悪口が一番効く。「なんだと。あたしの千里眼を知らないのか。まぶいだろうと何だろうと、あたしの遠見 (とおみ) にかかりゃ一発さ」

「遠見じゃなくて遠視じゃねえのか」とニャン五郎が言い終えぬうちに、四匹の猫と里紗が一斉におたか婆を取り囲み、「じゃあ、やって見よう」と声を合わせた。

そんないきさつで、二夜王を隊長に顧問格のおたか婆も加えて、まぶい捜索隊ができあがったのだった。里紗は仕事と音楽学校があるので、発見の連絡を受けしだい、お礼のご馳走を抱えて公園に駆けつけることになった。「ゴーヤーはだめだぜ。あんなもん苦くって食えやしない」と、ニャン五郎はダメを出すのを忘れなかった。

「婆さん、遅いな。やっぱり遠見なんかできないんじゃないか」と五匹が集まっているところへ、夜の間に行方不明のまぶいを遠見して、場所の見当をつけておくと約束させられたおたかが、のっそりと現れた。「おっ、婆さん、わかったのかよ」とニャン五郎の声に、「うるさいね。あたしゃまだ眠いんだ」と、ご機嫌が悪い。

横から玉三郎が「ばあちゃん、どこにあんの、まぶいは」と聞いた。

「透明なんで見えにくいんだ」

「どろなんかで汚れて、透明じゃなかったけど」

「いや、透けて見える。中に水が入っているようだ。ぷかぷか上下に動いているところをみると、川にでも浮かんでるんじゃないかね」

「えーっ、球に水が入っちゃったの? 沈んじゃうんじゃない」

「大丈夫だよ。半分くらいしか入っていないから、まだ浮かんでるさ」

「どこの川だよ。急がないと海へ流されたらおしまいだぜ」

五匹に取り囲まれたおたか婆は、「艮 (うしとら) の方角、日を反射して輝いてる」と答えた。「ウシやトラが盗っちゃったの? じゃあ、かなわないね」と亜尾。

「艮ってのは東北だ。ここから東北っていえば、境川か」

公園近くの商店街が切れたあたりに境川は流れていた。五匹とおたかは商店街を突っ切って見返橋に出た。境川はこの町の外れを流れており、昔から町の人たちは川を渡って外に出ていった。川の手前で見送りの人たちと別れるのが習わしで、後ろを振り返り振り返り、橋を渡っていったので、いつしか見返橋と呼ばれるようになったという。

野良たちは橋の手前で二手に分かれ、二夜王、ニャン五郎、玉三郎が川の下流を、おたかと小町、亜尾は上流を探すことにした。橋から河口までは二キロ足らず、海に出てしまったら探しようがないから、下流組の三匹は川を横目に見ながら懸命に走った。

太陽が川面に反射してキラキラとまぶしい。すぐに遅れ気味になったニャン五郎を「もたもたするな」と二夜王がどなる。「まぶしくってさ、まぶいを見落としちゃいけないから、あまり早く走れねえんだよ」。

二匹と間をあけて一匹が土手を走るのを、散歩に連れ出された犬が見つけてキャンキャン騒ぐ。餌をついばみに降りてきた雀がぱっと飛び立つ。そんなものは気にもかけず、三匹はひたすら駆けるが、川面には時折、魚がはねてしぶきがあがるくらいで、流れているはずのまぶいは見当たらない。

一方、上流を探し始めた小町らは川の近くまで降りて、あたりを見まわしながら、ゆっくりと歩いていた。「岸の草にでも引っかかってるといいんだけどねえ」という小町に、亜尾はおそるおそる川岸に近づき、首を突きだしている。「亜尾、あぶないよ。滑って川に落ちないでよ」。

「なんで、あたしがこんなことしなきゃいけないんだい。暑いし、腹は減るし、なにもいいことはありゃしない」。歩きにくい河原の草のなかで、おたか婆はぶつぶつ文句をいうばかりで、小町のあとをついていくだけ。ろくに探そうともしない。

そのうち川にあきた亜尾は、とことこ土手をのぼって、歩きやすい土手道を歩き出した。しぱらくして小町とおたかも土手をあがり始めると、結構先の方を歩いているらしい亜尾が、高い声をあげた。

「あっ、ママ、あったよ! 球があった」

「ほんと!? どこ? どこよ」

小町とおたかは一挙に土手を駆け上がった。


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群星昴(むるぶし・すばる): 作家見習い

一丁目生まれ。前作『猫っ句 二夜王たちの物語』(梁塵社)は猫たちの句会報告という毛色の変わった内容だったが、今回は再び二夜王、ニャン五郎、玉三郎、小町、たか子らの猫たちが登場、迷える人間を導く。

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