歯車

子供のころ

どこで拾ったのか直径一センチほどの

金属の歯車を大切に保管していたことがあった

何に使うというわけでもないのだが

正確に刻まれた無数の歯が美しく

大きさの割りに手に伝わる重量感が心強く

ときどき紙の上を転がしてみたり

真ん中の穴を目に当てて景色を見たり

遊んでいた。

いつまにか

どこに行ってしまったのか

歯車のあったことも忘れ

やがて自分自身が

会社の歯車の一つになって働いていた

油もさされ 手入れもされ

自分が歯車であることも忘れて

廻っていたが

いつか大きな歯車の回転にあわせて

廻らされていることに疲れ

ある日 はじけ飛んで

会社から飛び出した。

廻らない歯車として

いま 真夏の路上で

ジリジリ太陽に熱せられている

だれか どこの子でもいい

拾って

宝物にしてくれないか

砂村孤腎(すなむら・こじん): 自称詞人

酒場育ち。腎臓癌で摘出手術を受け、残った1個の腎臓で酒を飲み続ける飲み助。酒場の片隅で一人、酒をあおりながら口をついて出た詩句や短文をつなぎ合わせた「酔眼朦朧体」と称する詩の如きものを書き連ねる。

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